現代美術用語辞典 1.0
ウィーン工房
Wiener Werkstätte
2009年01月15日掲載
1903年、ウィーン分離派の一員であるヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザーが、実業家の資金援助を受けて設立したデザイン工房。ラスキン、モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動、アシュビーの工芸ギルド、マッキントッシュらグラスゴー派の成果を継承し、絵画・彫刻・建築と工芸の統一、日常生活への美の浸透という理想を掲げた。さらにウィーンでは、作曲家リヒャルト・ヴァグナーの「綜合芸術」が、諸芸術統合の理念に拡大解釈されつつ浸透しており、そういう文化的素地が、海外の工芸運動を摂取するうえで役だったと考えられる。したがってその活動は工芸品の個別生産にとどまらず、サナトリウムやキャバレーの設計そのものから室内デザインまでを一手にまかなう広範なものであった。現存する代表作はブリュッセルの《ストクレ邸》(1905-11)で、食堂にはクリムトがデザインしたモザイク・フリーズがある。「公衆、デザイナー、職人の三者の間の親密な交流を実現させ、良質で簡素な家具を制作したい」と謳う工房の理想は、経営難の現実にぶつかり、1932年に崩壊してしまう。だが、直線と矩形を重視した明快な造形、社会および大衆への積極的な意識、芸術性と商品性との間に生じる葛藤など、ウィーン工房が示す問題点はバウハウスやデ・ステイルといった20世紀のデザイン運動にも共通しており、こうした視点からの再検討は、今日のアートの解釈にも意義深いものであろう。
[執筆者:坂本恭子]