現代美術用語辞典 1.0
エステティック運動
Aesthetic Movement
2009年01月15日掲載
耽美主義、芸術至上主義などと訳され、デザイン史においてはムーヴメントではなく包括的概念であるとして、この項目を退けるものもある。海野弘が『現代デザイン――「デザインの世紀」をよむ』(新曜社、1997)で述べているように、「時代の気分といった現象」であるが、「世紀末の雑多な流れをひとまとめにとらえるのに便利であり、その大きなくくりで見えてくるものがある」ため、取り上げられる機会も増えている。この運動は19世紀末のイギリスを中心に起こった、ヴィクトリア朝美術の硬直性から脱する自由な表現をもとめたもので、アーツ・アンド・クラフツやラファエル前派、ジャポニスム、クイーン・アン・リヴァイヴァルなどを含み、アール・ヌーヴォーとの影響関係もある現象である。代表されるのはO・ワイルドで、彼は芸術と美の追求を標榜する審美家として知られる。この運動の背景には中流階級の生活の向上があり、百貨店や博覧会へと出かける彼らが芸術品を嗜好し、勤労生活からの解放を求める要求の高まりでもあった。K・グリーナウェイは、当時の「幸せな家族」のモチーフを好んで描き、当時の雰囲気を伝えている。このムーヴメントは、1880年代の新しい中流階級消費者が楽しむファッショナブルな生活モデルを提供した。出発点は文学とアートであったが、彼らが美に目覚め生活環境の変化を求めていったことが、この運動の重要な点である。ワイルドは「絵画と装飾タイルは精神的なメッセージを伝える上で差はないのだ」と言った。中流階級層は自分の部屋を飾り、美の世界を作ろうとした。アーツ・アンド・クラフツ運動をつくり手側の運動とすれば、これは受け手、消費者側からの運動と言えるのである。
[執筆者:紫牟田伸子]