現代美術用語辞典 1.0
エルゴノミクス(人間工学)
Ergonomics
2009年01月15日掲載
人間と機械との物理的な関係を説明した体系の総称で、この体系はインダストリアル・デザインの学問的根拠となっている。無数の機械の形状はそれぞれ合理的な根拠をもっているが、そのデザインの「造形」を問題視する場合、「人間」という観点を抜きにすることはできない。S・ギーディオンの『機械化の文化史――ものいわぬものの歴史』(GK研究所ほか訳、鹿島出版会、1977)を例に挙げるまでもなく、人間と機械との関係を説明するには膨大な記述を要するのだが、「人間工学」は主に、デザインの「造形」を人間の心理や感覚との関連で究明するべく発達を遂げてきた学問であり、その意味では認知科学と関連する側面をもつと言えよう。そして近年の「人間工学」にとって、最も重要な問題が「知覚の可能性(perceptive potential)の延長」である。3Dメガネやウォークマンのような人間の視覚や聴覚を拡張するガジェットの登場や、整形手術や人工臓器によって人間の身体そのものを機械化する試みは、今後人間の知覚がいかに変容していくのか、「人間工学」に基づいた説明を不可避的に要請しているのだ。
[執筆者:暮沢剛巳]