現代美術用語辞典 1.0
「盲者の記憶――自画像及びその他の廃墟」展
Memoire d'Aveugle
2009年01月15日掲載
1990年より毎年、ルーヴル美術館で開催されている企画展「Parti Pris」の第1回を飾った展覧会。「Parti Pris」とは「偏見/決意」を意味し、美術館の外部の作家や批評家に展覧会の権限を委ね、ルーヴル所蔵のコレクションを再構成してもらい、従来とは異なった解釈を提出してもらうことがその趣旨である。その記念すべき第1回目の企画展を委託されたのは、『絵画における真理』などの美術論も著した、国際的に著名な哲学者J・デリダであった。「盲者の記憶」とは、タイトルの通りに盲人を モティーフとした多数のドゥローイングを再構成し、健常者とは異なるその知覚のメカニズムを通じて記憶の在り方を探ろうとするきわめて思弁的な試みであり、中でもA=F・ラトゥールのデッサンは、当時顔面神経痛を患っていたデリダその人のポートレートを彷彿させる強度を持つ。さまざまな哲学的含意を持つ企画だが、D・ディドロの《盲人書簡》の現代的再構成と呼ぶこともできるだろう。デリダが同展カタログに寄せたテクストは、同名の書物として日本語でも読むことができる(鵜飼哲訳、みすず書房、1998)。なお翌年以降も、「Parti Pris」はP・グリーナウェイ、J・スタロンバンスキー、J・クリステヴァといった多彩なゲストを招いて開催され、展覧会企画の在り方に一石を投じている。
[執筆者:暮沢剛巳]