現代美術用語辞典 1.0

色彩形態

Colour Figure
2009年01月15日掲載

キュビストとして出発し、1930年代には幾何学的抽象の運動「アブストラクシオン=クレアシオン」の代表的存在だったオーギュスト・エルバン(1882-1960)は、戦後「サロン・デ・レアリテ・ヌーヴェル」を主催し国際的な名声を博したが、戦後の作品は手の痕跡を極力排し、舐められたかのように滑らかなその肌理を特徴としている。このように絵画の物質性を抑圧し、色彩と幾何学的形態の組み合わせからなる独自の造型言語により概念を表現しようとしたところが彼の独創と言える。ニュートンの『光学論』を批判し、自然の有機的な秩序に色彩を対応させたゲーテの色彩論にヒントを得た《非具象、非対象絵画》(1949)では、アルファベットと色彩、音階、形態を結びつける体系を作り上げた。基礎となる6つの母音字をもとに、 A=赤=ド(円形)、E=橙=レ(三角形と円の組み合わせ)、I=黄=ミ(三角形)、 O=緑=ファ(三角形と半円形の組み合わせ)、U=青=ソ(半円形)、藍色=ラ(対応する母音、図形はない)、Y=紫=シ(四角形)という組み合わせが決められ、これらの母音字間の子音字、例えばB、C、Dは、B=深紅、C=やや濃いめの赤、D=明るい赤、のように赤から橙への移行を示す、とされる。このような絵画観は、抽象表現主義や抒情的抽象などのいわゆる「熱い抽象」と対比され「冷たい抽象」と呼ばれることもあった。

[執筆者:飛嶋隆信]

現代美術用語辞典 2.0

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