現代美術用語辞典 1.0
ポストモダニズム
Post-Modernism
2009年01月15日掲載
モダンが「近代」と同時に「現代」を意味するものである以上、ポストモダンは原理上未来形でしか語れないはずのものだが、しかし今やわれわれは、ポストモダニズムを80年代の熱狂を体現する過去の表象として回顧している……。そもそもこの転倒した事態は、1977年にイギリスの建築批評家C・ジェンクスが刊行した『ポスト・モダニズムの建築言語』に端を発するものであり、当時主流であったデザイン原理を「後期モダニズム」と位置付けたジェンクスは、来たるべきより複合的なデザイン原理にポストモダニズムの可能性を見たのだった。今にして思えばいささか粗雑なこの議論は、当時多くの論客の関心を引きつけ、J=F・リオタールやF・ジェイムソンらの理論化を経て、美術においても、80年代には「オクトーバー」派の論客もこぞってポストモダニズムの立場を打ち出し、H・フォスターはその内部にある二つの力学を「抵抗のポストモダニズム」と「反動のポストモダニズム」に分割してみせた。80年代の奇妙な投機熱の思想的同伴者としての側面ばかりが強調されるポストモダニズムだが、その内実が、モダニズムの価値観打破という表看板よりもさらに踏み込んで検証されたことは少ない。考えてもみれば、この語の発案者であるジェンクスは、ただの一度もポストモダニズムを厳密に定義することがないまま、1980年代半ばには早くも「ポストモダニズムは歴史化した」と述べていたのである。
[執筆者:暮沢剛巳]