現代美術用語辞典 1.0
ノスタルジア
Nostalgia
2009年01月15日掲載
故郷または過去を懐かしむ気持ち。これは単純な前衛=進歩史観にとってはやっかいなものである。なぜならノスタルジアは、間違いなく「進歩」の妨げになる心性だが、一方で「進歩」そのものがたえず「新しいもの」を産み出すことで、同時にノスタルジアの対象、「懐かしいもの」を産み出してしまうのだから。特にこのノスタルジアが近い過去に向かうときは悲喜劇的だ。例えば90年代も終わろうとするこの時点から見ると、あれほど「新しかった」シミュレーショニズムもすでに「懐かしい」。もちろん、そのようにノスタルジアの対象となることに抵抗し続けるものもある。永遠の価値、あるいはたえず新しく見出される価値をもつそれは、どの時代に生まれたものだろうと「古典」と呼ばれるだろう。けれども一方で、「常に」懐かしい気持ち、つまり相対的でない絶対的なノスタルジアを、あえて求める試みもある。クリスチャン・ボルタンスキーの作品や、アンドレイ・タルコフスキーの映画──その中にはまさしく『ノスタルジア( Nostalghia)』と題されたものがある──を、わたしたちはその一例として思い浮かべることができる。
[執筆者:林卓行]