現代美術用語辞典 1.0

マジック・リアリズム

Magic Realism
2009年01月15日掲載

大著『ポストモダニズム――後期資本主義の文化理論』において、批評家F・ジェイムソンがR・マグリットの絵画《赤いモデル》を評して述べた言葉。この作品は、無造作に地面に置かれた革靴の先端部分が生身の爪先となっているもので、その精巧な描写と非現実的な雰囲気に、ジェイムソンは シュルレアリスムの先駆とも呼ぶべき不気味な質を見出している。なお同書の中で、ジェイムソンはほかにもV・v・ゴッホ、A・ウォーホル、W・エヴァンスの靴を モティーフとした作品を取り上げて分析し、4者の相関関係をチャートにして描き出している。それによると、マグリットの「マジック・リアリズム」は、エヴァンスの写真が体現する「旧世代の リアリズム」と対置されており、また現実を変容していく力に関してはゴッホの荒々しい表現と、ばかばかしさを体現している点ではウォーホルの人工的なイメージとそれぞれ共通していると指摘し、後の ポストモダンの議論へとつなげていく。美術史的な奥行きを持つ立場ではないが、一作家の表現上の特質を モダニズム全体の枠組みへと敷衍しうる興味深い仮説と言えよう。

[執筆者:暮沢剛巳]

現代美術用語辞典 2.0

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