現代美術用語辞典 1.0
タッチとストローク
Touch(Touche) & Stroke
2009年01月15日掲載
タッチとは筆触であり、絵筆による画面上の筆の痕跡である。タッチという造形要素が、絵画の技法として注目される例としては、19世紀のフランスにおける印象派の絵画作品が考えられる。印象派は、より明るく透明な色彩を獲得するために、パレットにおける色彩の混合をやめ、元の色をタッチによって並置することにより色彩の視覚的な混合を利用し、光を画面に表現しようと試みた。モネやピサロの作品は、その典型である。この印象派のタッチという技法は、古くはヴェネツィア派の絵画から、また近くは19世紀のフランスにおけるドラクロワやマネ、そしてイギリスのターナーからの影響が指摘されている。 さらに、タッチの顕著な画面上の表出が芸術家のオリジナリティの探求というモダニズムの兆候として認められている。それは、タッチという手法が、芸術家の新鮮で原初的なイメージを、より直接的に、また自発的に表現することを可能にしたと考えられているためである。このように、画家の独創的な表現が筆触の痕跡によって見られるのに対し、同時代の伝統的なアカデミーの見地からは、タッチを残さずに絵画画面の表層を滑らかにすることが作品の完成であるとみなされていた。 その後、印象派のタッチの技法は、スーラやシニャック等のネオ・アンプレッショニスト(neo-impressionniste)によって、より科学的に、色彩の視覚的な混合が推し進められて、点描法へと継承されていき、もうひとつの傾向としてはセザンヌやゴッホに見られるような、芸術家の内面的な感情表現と結びついたタッチへと展開していく。セザンヌやゴッホ等の作品における画家の手の動きやリズムを伝える運動感のある筆触がストロークである。ストロークは、画家の情動と結びついた運動感を示すことにより、観者に制作時における画家の手の動きを想像させるような臨場感や即興性を喚起するという効果をもっている。
[執筆者:安藤智子]