現代美術用語辞典 1.0
バレエ・リュス
Ballet Russe
2009年01月15日掲載
カリスマ的プロデューサー、セルジュ・ディアギレフ率いる独立興行のバレエ・カンパニー。1909年パリ・シャトレ劇場での初公演を皮切りに(正式な結成年は11年)、29年ディアギレフの死後解散するまで、ヨーロッパ、アメリカで活動し、約70本もの新作バレエを上演した。18世紀初めにフランスから伝えられたバレエはロシアで発展していたが、バレエ・リュスの高度なテクニックと鮮烈なイメージはヨーロッパに逆輸入され、衝撃を与えた。当初はストラヴィンスキーの音楽、バクストの舞台装飾等、スラヴ色の強いプリミティヴでエキゾティックなイメージを前面に出していたが、つねにスキャンダラスな存在であり続けようとしたディアギレフは、当時のアヴァンギャルドの才能を挑発しながらコラボレートし、17年(ロシア革命の年でもある)の《パラード》をひとつのメルクマールとして、ヨーロッパの芸術運動の前衛となった。未来派、キュビスム、シュルレアリスムなどの運動やコクトー、ピカソ、サティ、シャネルなどの多ジャンルのアーティストを巻き込み、ニジンスキー、マシーン、バランシン等の伝説的ダンサー、コレオグラファーを生み出すなど、バレエ・リュスはまさに時代の一大ムーヴメントの磁場を形成していたのである。バレエ・リュスの踊る=運動する身体は、時代の祝祭的気分を代表していると同時に、スピードとエロティシズムという、きわめて今世紀的なタームを体現していた。
[執筆者:井伊あかり]