現代美術用語辞典 1.0
芸術音楽
Ernste Musik
2009年01月15日掲載
狭義には、古来の美的形成原理に基づいた美しく調和的とされる音楽、能動的な聴取態度を要求される音楽、さらには主に19世紀末の「芸術のための芸術」期に生産された音楽作品を指す場合が多い。しかしより一般的にはいわゆるクラシック音楽のことで、作家の署名性や作曲の際に伝統的かつ厳密な形式、楽譜に基づいている点で、ジャズやサロン音楽、ポップなどとは一線を画す。一方、ドイツでは19世紀末から発生した娯楽音楽〈U-MUSIK〉と対比して〈E-MUSIK〉と呼ばれることもある。前者が、現代の大衆社会が生み出した「商品」としての軽音楽の生産と不可分の関係をもって生まれたのに対し、それと区別されるべく「芸術音楽」という言葉は〈E-MUSIK〉として新たな意味を与えられた。この区分けはすでに市民権を獲得してはいるが、現代における異なった芸術形態間のクロスオーヴァーな事情を考慮に入れていない表現とも指摘できる。
[執筆者:川那聡美]