現代美術用語辞典 1.0
モダン・マスターズ
Modern Masters
2009年01月15日掲載
近代美術から現代美術への過渡期以後に出現し、現在多くのアーティストに広く影響を与えたとされる「大家」の総称。近代美術の「大家」が「オールド・マスターズ」と呼ばれるのと対比されて用いられる。誰をモダン・マスターズとみなすかは意見の分かれるところだが、J・ポロック、M・ロスコ、J・ジョーンズ、F・ステラ、A・ウォーホル、J・ボイスらを含めることに異議のある者はほとんどいないだろう。これらの「大家」に共通しているのは、抽象表現主義しかり、ポップ・アートしかり、それぞれの動向を代表しており、誰しもその美術史的重要性を疑わないことである。モダン・マスターズが現代美術の「殿堂」にたとえられる所以だが、しかし近代以前ならいざ知らず、現代美術の作家をも評価の定まったものとして取り扱うことは、美術史や美術批評という言説の自己否定へとつながりかねず、専門的な議論の文脈で、安易にモダン・マスターズを語るのは慎むべき行為かもしれない。また「殿堂」という比喩はヘーゲル的な「芸術の死」を彷彿させるものでもあるが、とすれば第三世界の作家やメディア・アートなど、従来のモダニズム芸術観では評価しえない作家や動向が台頭した現在、A・キーファー以後マスターズの呼称がふさわしい「大家」は出現していないようにも思われる。
[執筆者:暮沢剛巳]