現代美術用語辞典 1.0
デペイズマン
Depaysement
2009年01月15日掲載
本来は、「故郷から追放すること、本来あるべきところから別のところへ移すこと、それにより異和を生じさせること」の意。シュルレアリストたちの制作を説明する概念のひとつで、「本来あるべき場所から物やイメージを移し、別の場所に配置すること、そこから生じる驚異」を指す。M・エルンストのコラージュ小説『百頭女』のA・ブルトンによる序文には、「超現実とはその上、一切のものの完璧なデペイズマンに対する、私達の意欲に応じて得られるもの」(ブルトン「『百頭女』のための前口上」1929)とあり、エルンスト自身も、既製のカタログや教科書のイメージの組み合わせによる彼のコラージュ作品を、「ふさわしからざる一平面での、互いにかけはなれた二つの実在の偶然の出会い」、すなわち「組織的デペイズマンの諸効果の培養」、「この方式(デペイズマン)を最も一般的な形で実行したもの」(エルンスト「意のままの霊感」1932)と評している。すでにシュルレアリストたちは、ロートレアモンの有名な一句、「そしてなによりも、ミシンとコウモリ傘との、解剖台のうえでの偶然の出会いのように、彼は美しい!」(ロートレアモン伯爵『マルドロールの歌』1869)を引き合いに、異質なものどうしの偶然の出会いを賞賛し、ブルトンは『シュルレアリスム宣言』(1924)のなかで、「シュルレアリスム(オートマティスム)」から生じる「二つのイメージの偶然の出会い」、その「不可思議」なイメージが「美しい」と述べているが、「デペイズマン」という言葉によって、それらはより的確に表わされるようになった。この言葉は、「見出されたオブジェ」、「優雅な屍体」などシュルレアリストたちのさまざまな活動を説明するものとして広く用いられ、20年代後半からシュルレアリスム運動に参加した画家、R・マグリット、S・ダリらの制作の中心原理ともなった。
[執筆者:中島恵]