現代美術用語辞典 1.0
梱包
Wrapping
2009年01月15日掲載
古代以来梱包という行為は、保護、保存、隠蔽などの実務上の必要から行なわれてきた。近代西洋芸術というカテゴリーに梱包が意図的に取り入れられたのは、M・デュシャンを嚆矢とすると思われるが、そこでは事物を布で覆うことでその謎めいた性格を引き出していた。現代においては類似した視点で梱包を取り込んでいた赤瀬川原平とクリストが有名である。両者いずれも日常的な事物(缶や壺から建築まで)を梱包によって束縛、隠蔽する。しかし、そこで目論まれているのは事物を日常的なコンテクストから引き剥がすことである。その結果「隠すことによって顕わになる」とでも言うべき逆説的な効果が現われる。特にクリストのように大規模な建築、風景をそのまま梱包するプロジェクトでは、異化効果も発揮され日常は気づくことのないそのサイト(site=位置、場、跡)の形態、大きさから歴史、意義までが浮かび上がることとなる。
[執筆者:苅谷洋介]