現代美術用語辞典 1.0
ニュー・ブリティッシュ・スカルプチュア
New British Sculpture
2009年01月15日掲載
1980年代のイギリスの彫刻の一群を指す批評用語。T・クラッグ、A・カプーア、R・ディーコン、A・ゴームリー、B・ウッドローなどに代表される。皆に共通した形式や内容はないが、A・カロに象徴される60年代のフォーマリズム的な彫刻に対する反動として、また彫刻の伝統的形式の再構築を志向したとして評価される。その彼らの作品を特徴づけるものに、ヤン・フートが86年にゲントで開いた展覧会「友達の部屋」において、イギリスの作家をひとりも選ばなかった理由として「彼らは空間や時間性の問題を追求するというよりも、オブジェをつくること自体に関心を持っている」と述べたというエピソードがある。この発言は、普遍的な問題を追求するということよりも、むしろ個人の経験に根ざした表現内容、表現形式を選択することが彼らにとって重要であったことを示唆する。事実、作品にはそれぞれ文学、神話、科学的世界観といったコンテクストが導入されたり、廃品やプラスティック、着色された石膏等が素材として選ばれている。このように、彫刻に多様性と創造性を新たなかたちで与えた彼らの意義は大きい。彫刻の復権とも言えるこの状況は、80年代後半以降のヤング・ブリティッシュ・アーティストたちに、R・ホワイトリードに代表される(広義の)彫刻家が多数含まれていることにも認められる。日本で行なわれた包括的な展覧会としては「イギリス美術は、いま」(90-91)がある。
[執筆者:保坂健二朗]