現代美術用語辞典 1.0

北方ロマン主義の伝統

Northern Romantic Tradition
2009年01月15日掲載

R・ローゼンブラムが『近代絵画と北方ロマン主義の伝統』で用いた主要概念。この著作はC・D・フリードリッヒとM・ロスコの作品の図像的類似を手がかりにしつつパリを迂回した近代絵画史を企てていて、美術史におけるリヴィジョニズムの一典型となっている。ローゼンブラムによると、フリードリッヒとロスコの作品は、それぞれ「自然的崇高」「抽象的崇高」と言い表わすことができ、共に「崇高」をめぐる精神主義的、超自然主義的思索に関わっているという。それ以前の近代絵画史が印象派を源流とするかたちで繰り広げられ、アメリカ抽象表現主義もその系譜上で理解されてきたのに対して、ドイツロマン主義や表現主義の系譜を強調し、抽象美術における超越性や宗教的テーマをB・ニューマンやロスコに見出すこの著作は大きな反響を呼んだ。たしかに風景画にしばしば見られる「感傷の虚偽」の問題系を「北方の」美術に即して追跡していくこの著作の問題設定が、近代絵画史でこれまで軽視されてきた部分であったことは間違いない。しかし、ほぼゲルマン/ラテンに対応する北方/南方という二分法の妥当性、「崇高」の規定など、多くの課題も残されている。

[執筆者:石岡良治]

現代美術用語辞典 2.0

▲ページの先頭へ