現代美術用語辞典 1.0
退廃芸術
Entartete Kunst/ Degenerate Art
2009年01月15日掲載
1937年にドイツ第三帝国の宣伝相J・ゲッベルスがプロイセン美術院長A・ツィーグラーに委嘱し、公的コレクションから1910年以降の「堕落した芸術」作品を展示させた展覧会。そこから当時弾圧された近代美術作品の総称としても用いられる。頽廃芸術とは「ドイツ感情を傷つけ、または自然形態を破壊ないし混乱させる、つまり仕上げの工芸的、芸術的な能力欠如を明らかに示すもの」であるとされ、「芸術神殿の浄化」と「国民の血税の浪費対象の是非を問う」ために国内32の公立美術館から押収された表現主義やバウハウス、ブラウエ・ライターなどの作家約120名の650余点が、ミュンヘンの考古学研究所をはじめとする独・墺の13会場を4年間かけて巡回した。この展覧会以外にも多くの作品が押収され、軍備資金のために国外に売却、またはその価値もないとして焼却されたが、37年に始まるこの災禍は「絵画の嵐 Bildersturm」と呼ばれている。W・カンディンスキー、P・クレー、O・ディクス、E・バルラハらの作品が「ユダヤ人の顔をしたドイツ農民」「狂気の極み」といった、題名と無関係の標題と共に展示された「退廃芸術」展と同時期に、ミュンヘンではヒトラーを開会式に迎えて「大ドイツ美術」展が開催され、ナチ御用作家によるギリシア的あるいはアーリア人種的な田園画や人物像が展示された。両展覧会はナチのプロパガンダが美術に及んだ代表例と言える。 参考文献:『芸術の危機──ヒトラーと頽廃美術』(神奈川近代美術館ほか編、1995)
[執筆者:三本松倫代]