2020年10月15日号
次回11月2日更新予定

現代美術用語辞典 1.0

熱い抽象/冷たい抽象

Hot Abstraction / Cool Abstrakusion
2009年01月15日掲載

第二次世界大戦後の抽象芸術における二つの傾向を、対照的に表わした語。色彩の表現力を活かし、動感あふれる構図や有機的な形象を用いて、人間の内面・精神性を直截に訴えようとした「表出的抽象(expressive abstraction)」と、合理的な幾何学形態によって、厳格な純粋造形を求めた「幾何学的抽象(geometoric abstraction)」とを、それぞれ「熱い」「冷たい」と評したもので、あくまで比喩的な形容であり、今日ではあまり使われなくなっている。抽象芸術のはじまりにあっては、この比較はカンディンスキーとモンドリアンによって代表することができるだろう。「冷たい」抽象は、工業生産、機械文明の発達を背景に、バウハウスデ・ステイルピュリスムなど、20世紀のデザイン運動や建築スタイルと連動している。一方「熱い」抽象は、戦後の社会不安に対する反発となって、抽象表現主義アンフォルメルタシスムなどに継承されていった。しかし、抽象と具象の二項対立が崩れつつある現代では、こうした抽象の区分も便宜的な意味しかもちえない。たとえば抽象表現主義に数えられる画家でも、ポロックのアクション・ペインティングは「熱さ」のわかりやすい系譜に置けるが、崇高を志向したロスコの作品に、「冷たさ」に通ずる要素が皆無であるとは言い難い。外見の生命感や静謐さに基づくカテゴライズ以上に、「抽象」と呼ばれるものの根源に何があるのかを追究することが重要である。

[執筆者:坂本恭子]

現代美術用語辞典 2.0

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