現代美術用語辞典 1.0

美術館

Museum
2009年01月15日掲載

一般的には文化的作品の収集、保存、展示、研究を目的とした公的機関を指す。語源的には古代ギリシアの技芸と科学の女神を祀った神殿ムセイオン(mouseion)に辿れる。紀元前4世紀にアリストテレスが創始した生物学的研究に基づいた収集・分類法はプトレマイオス1世に継承され、アレキサンドリアに文書やオブジェの収集・保存・修復活動をするムセイオンが建てられた記録が残る。ルネサンス期には新奇な標本や人工物が、当時ミクロコスモスとみなされていたヴンターカマー(驚異陳列室)に集められ、珍奇な私的コレクションを形成した。このコレクションの所有者たちはこれにmuseumと冠し、その権威を示威することに利用した。また同時期にメディチ家やハプスブルグ家に代表される王侯貴族の宮殿、教会などにギャラリーが形成され、絵画、彫像もコレクションされるようになると、そこで美術作品を対象とした美術史的、美学的展示指針が成立しはじめ、展示方法を巡る論議がこれ以後ミュゼオロジーの主要観点となる。しかしこれらのコレクションが公的に開かれるようになるのは17世紀以降で、1683年のアシュモーリアン美術館が平等主義に基づいた近代美術館の原点とされ、その後18世紀には大英博物館をはじめ各国でギャラリーが公開されるがその公共性はいまだ限定的であった。一般公開が達成されたのはフランス革命を経た1793年に開館したルーブル美術館で、同時に革命政府の威信を表明する装置としても機能した。これを期に18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパを中心に国立美術館が多数創設され、19世紀後半にはアメリカでもボストン美術館、メトロポリタン美術館などが開館し、ヨーロッパのマスターピースだけでなく、アジア、アフリカ美術の収集も推進。20世紀以降は前衛美術の受容によって近現代美術館の成立が顕著となり、そこを中心に美術館の役割、機能、功罪についての論議が活発化するとともに、教育機能の重視、学術的専門性の追求が目指されるようになっている。

[執筆者:宮川暁子]

現代美術用語辞典 2.0

▲ページの先頭へ