大和文華館の初代館長を務めた矢代幸雄(1890-1975)は、イギリス・イタリアに留学してサンドロ・ボッティチェリ研究の大著を出版した美術史家であり、帰国後は日本での東洋美術研究に力を注ぎ、美術研究所(現・東京文化財研究所)の創立に関わり、その初代所長を務めたほか、文部省の依頼で日本美術を海外に紹介する展覧会事業に携わります。

戦後には近畿日本鉄道(現・近鉄グループホールディングス株式会社)の文化事業として美術館の構想と設立に奔走し、大和文華館は1960年に開館しました。矢代幸雄が蒐集した美術作品は、現在までコレクションの中核となっています。

大和文華館の所蔵作品は東洋古美術を主体としますが、矢代幸雄が東洋美術に造詣を深めた背景には、美術品蒐集家で芸術家のパトロンでもあった原富太郎(三溪)との交流が大きく影響し、また、留学により国際的な視野から日本美術を強く意識したことが挙げられます。矢代幸雄は奈良や京都だけではなく中国へも幾度も訪れ、芸術作品を生み出した文化を肌で感じようと努めています。

2025年は矢代幸雄の没後50年にあたり、大和文華館では記念特別展を開催いたします。矢代幸雄が蒐集した初期のコレクションとともに関連する諸作品を展示し、矢代幸雄が美術へ注いだまなざしから、東洋美術研究の足跡と視点を捉え直そうとする内容です。