松岡学は富山県の港町で生まれ育ち、釣りを趣味としている。タナとは釣り用語であり、魚が遊泳している層のことをいう。
松岡の絵は情報量がかなり少ない。意識的に削ぎ落としている構図によって、陰影が奥へと誘導され、筆跡のストロークが空気の動きや時間の流れを画面から感じ、景色が動き始める。「モチーフにどれだけ記憶が含まれているかを考える。自分が深く関わった場所を描くことで、新たに何かを思い出したり、個人的な象徴性のレイヤーがそこに表れたら良いと思う」と彼は言う。彼は記憶を探り、層を描き、そして、鑑賞者は時間の変化を感じ取る。瞼の裏に映るような記憶、情景が脳裏に焼きつく感覚がある。
本展の作品はすべて〝海景(seascape)〟で構成されている。松岡の描く海景は、小説の一文、映画のワンシーンのようでもある。絵の前で時間を忘れて佇んで欲しい。彼の記憶の原風景「記憶のタナ」を是非ご高覧ください。