この度、iwao galleryでは、牧野真耶の個展「Aufheben」を開催いたします。
牧野はこれまで一貫して〝記憶〟という現象を主題に制作を続けてきました。雨の気配や夜の静けさといった日常の些細な感覚を、幼少期の記憶と結びついた原初的なイメージとして描き出します。その表現を支える重要な要素のひとつが、藍という染料です。幾層にも重なる藍の色彩は、支持体の内部へと染み込みながら、時間を内包するかのように画面に定着します。その揺らぎのある色合いは、記憶の曖昧さや移ろいやすさを静かに映し出しています。ミニマルな構成のなかに、人間が持つ普遍的な色彩の記憶を喚起する絵画です。
〝Aufheben(アウフヘーベン)〟は、哲学者ヘーゲルの用語として知られ、保存と消失、否定と継承といった相反する意味を併せ持つ概念です。記憶は呼び起こされるたびに再編され、現在の意識によって更新され続けます。本展の作品は、作家自身の記憶が立ち現れる直前の気配や、変容し続ける時間のあり方そのものを捉えたものです。鑑賞者もまた、どこか懐かしさを感じると同時に、いまこの瞬間の感覚として新たに編み直されるでしょう。
是非この機会にご高覧ください。