写真の技法の中でも最も古いものの一つであるフォトグラムと、そのデジタル版ともいうべきスキャングラムを軸に制作を続けてきた西村陽一郎は、身近な事物の見え方に静かな変化をもたらしてきました。本展では、1989年の作品「小惑星」から最新作までの作品を展示します。写真家活動40年、写真集『青い花』刊行10年という節目に、その視線の軌跡をあらためてたどります。

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西村陽一郎
1967年東京都生まれ。
美学校で写真を学び、撮影助手を経て1990年に独立、フリーランスの写真家として活動を始める。
カメラを使わない写真技法であるフォトグラムやスキャングラムを中心に、植物や昆虫、鳥の羽、水、ヌードなどをモチーフとした作品を発表している。

20promising photographers VOL.2(パルコギャラリー)、ヤング・ポートフォリオ(K’MoPA)、’99 EPSON Color Imaging CONTEST、PHILIP MORRIS ART AWARD 2000、TPCCチャレンジ2003(東京写真文化館)などに入選。作品集『青い花』が第58回全国カタログ展にて国立印刷局理事長賞及び金賞受賞。
https://www.yoichironishimura.com/

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西村陽一郎は、カメラを用いずに物体を直接感光させて像を定着させる「フォトグラム」、そしてそのデジタル的展開ともいえる「スキャングラム」を軸に制作を続けてきた写真家です。植物、水、昆虫、ヌードといったモチーフを通して、私たちの身近に存在する事物を写し取りながら、その見え方にさまざまな変化をもたらしてきました。

2026年は、西村が写真家として活動を開始してから40年の節目にあたると同時に、スキャングラム作品をまとめた写真集『青い花』(2016年)の刊行から10年という年でもあります。本展は、その時間の蓄積を意識しながら構成されます。

展示には、1989年に制作された写真作品「小惑星」が含まれます。本作は、西村が1990年に「20 Promising Photographers」(パルコギャラリー)に選出された際に発表された作品であり、現在に至るまで継続されてきた視線の原点を示す作品でもあります。ごく身近な対象の中に潜む、小さくも決定的な世界のありよう。その感覚は、現在の作品にも一貫して通底しています。

本展ではさらに、西村が長年取り組んできたフォトグラム、そしてスキャングラムによる作品が並びます。これらは約20年前の作品から最新作まで、幅広い年代の中から選ばれています。そこに写し出されるのは、植物や虫、水辺の生き物、人工物といった、私たちの日常に遍在する存在です。しかし、それらが写真の中で見せる表情は、私たちが普段認識しているものとは異なります。

フォトグラムにおける暗室、スキャングラムにおけるスキャナー。外界から切り離されたその環境は、被写体と写真家が向き合う、いわば密室のような場でもあります。光と時間を媒介として、対象との静かなやり取りが積み重ねられた先に、被写体の潜在的な状態が立ち現れます。

西村は、どのようにして日々そうした対象と出会っているのでしょうか。
そして私たちはなぜそれに気づかないのでしょうか。

本展では、その一端を示すものとして、西村が日常的にスマートフォンで撮影してきた膨大なスナップ写真を、スライドショー形式で展示いたします。これまでギャラリーのウェブサイト上で継続的に公開されてきたこれらの記録は、西村の生活のリズムとともに、被写体との出会いのあり方を示唆しています。

西村の写真には、私たちの日常と連続しながら、同時に見過ごされてきた多くのものが写り込んでいます。それは特別な対象ではなく、私たちの足元に常に存在しているものたちです。

写真家、森山大道がそのイメージを「妖しく官能的で蠱惑に充ちたミクロコスモスへの旅」と表現するように、西村の写真は、現実の断片をどこか夢のような像へと変換する力を持っています。一方で写真評論家の飯沢耕太郎は、その実践をフォトグラムの歴史的系譜の中に位置づけ、写真というメディアの原初と未来を接続する試みとして評価しています。西村の作品は、写真の起源に触れながら、その延長線上に新たな視覚の可能性をひらいていくものです。

本展は、その40年にわたる実践を、現在の視点からあらためて捉え直す機会となります。