「大丈夫です」。やんわりとした拒否によって他人との摩擦を減らし、なめらかな関係性を維持する便利な言葉です。同時に、相手の領域へ踏み込むことも自らの内面を開示することも避ける、防波堤のような役割を果たすこともあります。近年のこうした言葉遣いに見られるように、わたしたちは身体性を伴った他者との関係を簡略化し、将来的に取り除こうとしてはいないでしょうか。さらに、AI の進化が示すように、わたしたちは自らの身体を取り囲む数多くの事柄との折り合いを外部に委ねようとしています。本展では、そうした方向に進む社会のなか で、自らの身体をつうじて他者との色濃い関係を構築しようと模索する 2 人の作家・津野⻘嵐と二藤建人を紹介します。

津野⻘嵐はこれまで、衣服づくりや身体経験をめぐる実践、執筆など分野を横断しながら自身の身体との付き合い方を探求してきました。看護師でもある津野の表現は、ケアを介した他者の存在とともに、ケアする側とされる側の関係は一方向ではないことを描写しています。《Walking With》では、津野が巨大なドレスを背負いながら友人たちのサポートによってどうにか歩みを進める姿から、他者なくしては成立しない身体のあり方を明示します。

二藤建人は彫刻制作を起点にしながら、多様なメディアを用いて表現を続けてきました。 《誰かの重さを踏みしめる》のように、重さを受け止めて支え合い、自他の関係性を身体で感じ取ることを焦点化してきた二藤の関心は、自ずと実母や配偶者、実子へと及びます。近作では、子育てのさなかで生まれる戶惑い、親という役割によって変化していく「わたし」と家族の関係性を問うています。

津野と二藤は、意識による身体制御のむずかしさや、環境による変化など、自らの身体の困難な側面を知るところから探求をはじめ、その先で、他者との関わり合いへの気づきを得ています。2 人の表現は、他者を遠ざけるためではなく、「大丈夫」と自らの身体を肯定することで、他者と深く響き合うための確かな手がかりとなるでしょう。