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福田美蘭の個展が国立国際美術館で催された。30歳代半ばにして、一つの展覧会としてこれほど大きな会場を埋め尽くすことができるのだろうか、などという心配はまったく取り越し苦労であった。
85年の作品から新作まで約100点で展覧会は構成されていた。第1部でこれまでを回顧し、第2部で新作を披露した。彼女は現代社会の問題をも無視することなく、絵画が歩んできた歴史そのもへの問いかけや、絵画という枠を超えていこうとする真摯な取組みが、かたちになってはっきりみえてくる展観であった。
軸装した日本画や水墨画の典型的なモチーフを、「日の出」の丸い太陽をハート型にしたり、『遊鯉』では1匹だけ腹をみせて仰向けに浮かぶ鯉を描いている。『Piet a』のキリストは切り抜かれ、画面を突き破って床に支えられ、聖母の腕から離脱し、自立している。絵筆の筆触を、カラーのマーカーペンの角ついたまっすぐな筆跡と交換してみたりするなど、批評性に満ちた置き換えが楽しめる。絵画における額の問題から、ディズニーのキャラクターの著作権の問題まで、重要な問題を小気味良く明解に作品のなかで提示する力は、観ている者をも心地よくする。
いつもは日曜日でも閑散としている国際美術館が、子どもから老人まで幅広い年齢層の観者たちでいっぱいであった。もっと、喜ばしいことには、一つの作品の前にいる滞在時間がとても長かったことだ。展覧会場でよく出くわすのは、作品を前を一瞬にして通過して、作品の横の解説に読みふける来場者の姿である。この展覧会では、各々が作品のなかに描かれたさまざまな角度からのアーティスト福田美蘭のまなざしを、自ら確認しようとしていた。そしてそういう作品とのコミュニケーションを楽しんでいる様子だった。
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