愛知
一藤木葵
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円空展
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ナタ彫りの木彫仏で知られる江戸時代初期の遊行僧、円空。彼は、美濃国、現在の岐阜県に生まれ、日本各地で多くの仏像を刻んだといわれている。その生まれ故郷で円空の展覧会が開かれている。この企画は、今年5月から8月にかけて、ベルギーのアントワープ市民族学博物館で開かれた展覧会の帰国展だ。
円空は1632(寛永9)年に生まれ、若くして出家。34歳の頃、生涯12万体造像の悲願を立てて諸国遊行の旅に出た。その足跡は、北海道、東北、関東、中部、近畿などに及び、各地に『円空仏』を残している。そして64歳の時、長良川の再三の大洪水による多くの使者たちに対し、その供養と長良川を鎮めるために、食を断ち、即身成仏入定を遂げた。
のびのびとしたユニークな円空の仏像はプリミティブであり、かつ装飾を廃した表現はミニマルでさえある。彼が生きた時代、つまり元禄期までの仏像は、日本の仏教美術の歴史の中でも最も細工的、装飾的だった。そこにこの円空仏である。ナタと2、3本のノミだけで、荒々しく彫った素地仕上げの仏像は、当時かなりの異端だっただろう。しかし円空の表現こそ、そこに彼の人生を重ね合わせることでなおさら、衆生救済の表現だと思えてならない。民衆のために彫ったという力強さと、彼の仏に対する確信の様なものを感じるのだ。
円空の彫る仏は、どことなくエキゾチックな顔をしている。それは、彼が法隆寺で仏教を学んだことと無関係ではない。大陸の仏師たちが彫った法隆寺の仏像を見て彼は、自分なりの表現に行き着いたのだろう。
プリミティブ、ミニマルなど現代美術にも共通する表現と、大陸的でおおらかなエキゾチックさからか、円空仏はベルギーでも高い評価を受けたという。
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会場:岐阜県博物館
岐阜県関市小屋名 岐阜県百年公園内
会期:1999年10月22日(金)〜11月14日(日)
開館:9:00〜16:30 休館日=11月8日(日)
入場料:一般600円/大学生300円/高校200円/小・中学生150円
問い合わせ先:Tel.0575-28-3111 岐阜県博物館
トニー・クラッグ新作展
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会場に入ると、ブロンズでできた黒い彫刻作品が目にとまる。「ポットホール」「いちぢく」と題された二つの
トニー・クラッグ
の作品。その有機的なフォルムの作品の表面には穴があき、作品の中も、向こう側も見える。視覚的な壁になっているブロンズの表皮が、いわば透明になっているのだ。彼によれば、こうしたENVELOPEシリーズは「形態を理解し、体験しようとする試みであると同時に、内部と外部の差を露にしている」ものだという。
トニー・クラッグは1949年イギリス生まれ。身近な道具やものを作品に用いる作品で注目を浴びた作家だ。例えば79年には、河原や海岸で拾ったプラスチックの破片を床に置いたインスタレーションなどを発表した。その後、鉄、ブロンズ、石膏、ガラスなど幅広い素材を用いて、容器や生命の形を複合的にイメージさせる彫刻を制作している。
今回の新作展では、さらに樹脂による作品も展示。生命体を思わせる有機的な形の作品は、無数のサイコロを集積したものである。それは、数多くの分子が結合した高分子の姿でもある。
無機と有機の間から生まれくる彼の表現は、物質の研究から生命の探求へと進む分子生物学の進歩など、生命と物質の境界が曖昧になりつつある現代の中で、改めて人間と自然との関係を、見る側に考えさせる。
今回のトニー・クラッグは、東京のKENJI TAKI GALLERY(東京都新宿区西新宿3-18-2-102 Tel.03-3378-6051)でも同時開催。東京展でも新作のブロンズ作品を展示している。
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会場:KENJI TAKI GALLERY
愛知県名古屋市中区栄3-20-25
会期:1999年10月16日(土)〜12月18日(土)
開廊:10:30〜13:00 14:00〜18:00 休館日=日、月曜日、祝日
入場無料
問い合わせ先:Tel.052-264-7747 KENJI TAKI GALLERY
鷲見麿展
“Ein glaubwuerdiger und erusthafter mann”
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この画家は、本当に画力がある。職人的と言っていい。
鷲見麿は、障害児と接し、彼らが同じ絵を反復することで内面を伝達することから触発され、同様に女子高生をモデルにした同じ絵を繰り返し何枚も描く「青紀」シリーズを手がけている。他にも80年代はじめには、当時資生堂のコマーシャルに起用されていた(というより今やデヴィ夫人とのもめごとで知られる)マリアンを郷里とおぼしき田舎の風景の中に登場させ、ホックニーやステラのイメージを取り入れて、村人の性的な欲情をユーモラスに描いたシリーズ作品を、描いている。
ところが、今回の作品はそうした流れにはとりあえずは属さない。16世紀のドイツの画家、アルドルファーの細密画「アレクサンダー大王の戦い」(1529)を模写した絵画なのである。彼がドイツのピアニストから依頼された模写絵だ。
3年の時間をかけて完成したというこの絵画。ミリの単位の小ささで馬上の兵士の姿や城郭などが描かれている。まさにこの画家の技術を見せつけられる思いだ。細かいところまで職人技で完璧に模写されているのだ。本当に絵がうまい。
と思いきや、よく見るとすべての兵士が眼鏡をかけている。なんと数千の兵士が全部、依頼人と同じ顔をしている!? そして、三頭立ての馬車で逃げる敵の将軍らしき人物がもっているのは、これまで彼が手がけてきた「青紀」ちゃんの絵ではないか!細部にはそんな仕掛けがあった!!
なおこの作品は、ドイツのギャラリーでも展示されたあと、依頼主に渡されるという。ちなみに展覧会の副題のドイツ語は、「信仰深い男」という意味。
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会場:白土舎
愛知県名古屋市中区錦1-20-12伏見ビル地下
会期:1999年9月18日(土)〜10月16日(土)
開場:11:00〜7:00
入場無料
問い合わせ先:Tel.052-212-4680 白土舎
美術ライター・レポート 一藤木葵
(いっとうぎまもる)
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10月9日、嘉手苅林昌氏が亡くなりました。大好きな沖縄民謡の歌い手でした。地元では「風狂の唄者」と呼ばれていました。「島唄の神様」といっていい存在でした。実際に彼が歌うのを見たのは2回だけですが、飄々と自然体で歌う姿がとても印象的でした。そこには琉球の魂がありました。魂といっても決して力強い声高なものではなく、「テーゲー」(なんとかなるさ)の思想に裏打ちされた、肩肘張らないのんびりとしたおおらかな精神です。ご冥福をお祈りいたします。
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