福島
木戸英行
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ピカビア展
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フランシス・ピカビア
「セルフポートレート」1940年
ピカビアには悪いのだが、今まで「機械を描いたデュシャン風の作品の人」という程度の関心しかなかった。作品と言っても、ピカビアと聞いて思い出すのは、本人の作品ではなく、横尾忠則の版画シリーズ≪ピカビア−その愛と誠実≫のほう、という具合である。もっと言えば、なんとなく胡散臭い作家という印象すらあった。それはもちろん、彼が、まるで流行に合わせるかのように生涯にわたって幾度もスタイルを変えたことによる。同じスペイン人である
ピカソ
の場合は、スタイルの変遷もすべて許せてしまうのに、ピカビアだとそうはいかない、というのも理不尽な話ではあるが。
しかし、展覧会を見て、以前のそうしたピカビア観はものの見事に覆された。一見節操を欠いたようなスタイルの変遷も、生まれついてのダダイストである彼一流の挑発だったとしたら……。南仏の高級リゾート地に居を構え、いつも美女たちに囲まれながら、夜毎のパーティーでは帝王のように君臨したとされる彼の姿と、突然のように制作活動を中止し、ひたすらチェスに興じる隠遁生活を演じてみせた
デュシャン
のニューヨーク時代が、じつは二人が密かに申し合わせて、大西洋を挟んでくりひろげた壮大な挑発行為であったかのように思えてならない。
それにしても、第二次世界大戦中、あまりにダダ的な精神と非政治的な姿勢のために孤立を余儀なくされたピカビアが、コート・ダジュールのアトリエで執拗に描きつづけたという一連のヌード画の、あの意地悪さはどうだろう。30年代の大衆雑誌から切り取ったエロ写真をもとに、自らはその能力をもはや失ったにもかかわらず妄想だけは肥大した老境の日曜画家の作といっても通用しそうな稚拙なタッチで描かれた作品群。そして、清潔な美術館のギャラリーで神妙にそれらを「鑑賞」するわたしたち。これは皮肉ではなく、その徹底的な意地悪さに、挑発されるこちらとしてはむしろ痛快な気持ちすらしてくるのである。
展覧会は、11月14日までいわき市立美術館で開催後、2000年1月26日から大阪、近鉄アート館に巡回する。
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会場:いわき市立美術館 福島県いわき市平字堂根町4-4
会期:1999年10月17日(日)〜11月14日(日)
開館:9:30〜17:00 休館日=月曜日
入場料:一般720円/高・高専・大生520円/小・中生310円
問合せ先:Tel. 0246-25-1111
企画展「生の中の死」
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「受苦図」近世
福島県白河市・常宣寺蔵
少々場違いではあるが面白かったので紹介したい。展覧会は、福島県内に残る史料を中心に、わが国の近世・近代における「死」の様態を、美術、民俗学、宗教、医学史などから多角的に検証しようという内容である。
わたしたちはマス・メディアを通して毎日のように、人が死に、殺されていく映像を見ることができるが、いうまでもなく、近世や近代にあっては、死はまさに日常のリアルな現実だったはずである。展覧会は、死をかつて日本人の日常生活のすぐ傍らに横たわっていた出来事として捉え、死の対極としての妊娠・出産から始まり、仏教美術に見る死後の世界、そして、「死の風景」と題して、現実の死をめぐるさまざまなしきたりや手続きを、豊富な史料で解説していく。
展覧会の冒頭を飾るのは、県内、白河市の常宣寺に伝わる「受苦図」。これは、江戸時代に横行した、生活苦から我が子を殺す「間引き」行為を戒めるためのもので、間引きをした女が地獄でどのような責め苦を受けるかが描かれている。生の始まりである誕生そのものが、嬰児殺しというもっとも悲惨な死と直結していたことに、いまさらながら時代の過酷さを感じるが、逆に言えば、わざわざ、こうした絵画で戒めなければならないほど、民衆の間にこの行為が横行したということに、当時の死生観と現代における死生観との根本的な違いを認めざるをえない。
作品は、上部に今まさに間引きが行なわれようとしている家の様子が配され、その家の下には、地獄へとつづく暗い穴と、審判を下さんとする閻魔大王が描かれている。そして鬼どもから拷問を受ける女たちのまわりには、なぜか白い紙を手に無邪気に遊ぶ赤子らの姿。文字にすると確かにおどろおどろしい光景だが、作品は繊細かつ丁寧に描かれ保存状態も良好なためか、間引きの悲惨さとは違う次元の、何か別の感情を触発する。上手く表現できないが、インドで野犬が人の死体に食らいつく光景を写した、藤原新也のあの有名な写真を見たときの感情にも似た何かと言ったらよいだろうか。
展覧会は12月12日まで。会津を訪れる機会があったら是非ご覧いただきたい。
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会場:福島県立博物館 福島県会津若松市城東町1-25
会期:1999年10月9日(土)〜12月12日(日)
開館:9:30〜17:00 休館日=月曜日
入場料:一般・大学生260円/高校生150円/小・中生100円
問合せ先:Tel. 0242-28-6000
学芸員レポート[CCGA現代グラフィックアートセンター]
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artscape10月号で荒木夏実さんが、9月に開館した東京オペラシティアートギャラリーの「感覚の解放」展について書かれていましたが、ぼくもオープン数日後に行ってきました。展覧会の内容は
荒木さんのレポート
をご覧いただくとして、ぼくは、その時に見つけた別の収穫のことを紹介します。と言っても、展覧会やギャラリーのことではなく、東京オペラシティアートギャラリーのミュージアムショップで買ったCDの話。
ジョアウン・パウロというポルトガルの(ジャズ、と言っていいかな?)ピアニストの「流浪者」というアルバムです。ピアノとサックスとベースというちょっと変則的なトリオの演奏ですが、これが最近聞いたジャズ系レコードの中では個人的に「大ヒット」でした。一口で説明すれば、ジャズとバロック音楽と現代音楽とポルトガルの大衆音楽ファドを足して4で割ったような、ということになるのでしょうが、軟弱な折衷主義といった印象は全然ありません。もともと音楽に関しては、一度気に入ったらしつこく何度でも聞きつづけてしまうほうなのですが、このCDにはすっかり魅せられてしまって、入手してからほぼ毎朝通勤途中に車を運転しながら聞いているほどです(さすがに、もうやめようかなと思っていますが)。早くも紅葉が散り始めた福島の国道によく合います。もちろん福島県以外の方にもお勧めです。
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