Feb. 18, 1997 Mar. 11, 1997

Art Watch Index - Feb. 25, 1997


【現象する身体
 −《デ-ジェンダリズム》展】
 ………………●多木浩二


Art Watch Back Number Index



《デ-ジェンダリズム〜回帰する身体〜》
会場:
世田谷美術館
会期:
1997年2月8日
 〜3月23日
問い合わせ:
世田谷美術館
Tel.03-3415-6011
草間彌生

草間彌生
反復のヴィジョン
1960-95年
Photo:Kazuhiro Uno

ジャニーヌ・アントーニ

ジャニーヌ・アントーニ
ひとなめと石鹸の泡
1993年

レベッカ・ホーン

レベッカ・ホーン
滝を演じる小さな絵画学校
1988年

ロバート・ゴーバー

ロバート・ゴーバー
無題(1/2男性、1/2女性の袋状トルソ)
1990年

『デ・ジェンダリズム−回帰する身体』世田谷美術館より






世田谷美術館
http://www.setagayaart
museum.or.jp/

Eva Hesse - Reference Page
http://www.artincontext.com/
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Profile: Matthew Barney
http://www.guggenheim.
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Yayoi Kusama
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UNSOUND/Actual/Unsound/
Popoffice/Artists/
YayoiKusama/

Yayoi Kusama - Reference Page
http://www.artincontext.com/
listings/pages/artist/
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Mona Hatoum
http://illumin.co.uk/
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MONA HATOUM
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Mona Hatoum - Reference Page
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BABY / Marie-Ange Guilleminot & Fabrice Hybert
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Profile: Janine Antoni
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FASHIONTELEVISIONGALLERY - ART
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Janine Antoni - Reference Page
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Rebecca Horn
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Abramovic
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Marina Abramovic - Reference Page
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Robert Gober
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ArtistGuide: Robert Gober
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Robert Gober - Reference Page
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八谷和彦
ポストペット
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Mattress Factory Past Works: Vito Acconci
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Explorers: Vito Acconci
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Vito Acconci - Reference Page
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世田谷の馬六明
Column - Mar. 4, 1997

馬六明パフォーマンスの記録
―デ-ジェンダリズム展
パフォーマンス記録上映会
Art Information - Mar. 11, 1997

現象する身体
−《デ-ジェンダリズム》展

●多木浩二



世田谷美術館が今開いている展覧会は、充分に刺激的な環境に観客を引きずり込む点では、最近の美術館の気だるい回顧的な展覧会に比べると出色である。内外から選んだ15人の作家(エヴァ・ヘスマシュー・バーニー草間彌生モナ・ハトゥームマリー=アンジェ・ギルミノ、ジャニーヌ・アントーニ、レベッカ・ホーンマリーナ・アブラモヴィッチ、馬六明、キム・スジャ、加藤豪、ロバート・ゴーバー、西山美なコ、八谷和彦ヴィト・アコンチ)の作品や行為は、身体とのかかわりは共有していても、本来的に多様で、ひとつの言葉で要約することは出来ない。たとえばエヴァ・ヘスひとりとっても、彼女自身がさまざまな手段を用いる。この多様さが、実は身体という厄介なものを見せることにともなっているのだ。観客はそのなかを彷徨すればいい。そして気になる刺激に出会ったら、ゆっくりひとりひとりの方法を、多少の不快感とともによく見てみるといい。それは自分自身にも無縁でない筈だ。

身体を提示する可能性

この展覧会がある明確で大胆な意図のもとに企画されたことを見逃す人はいまい。われわれは、身体とか、性とか、決して理性的な言語では解きがたい領域に頭を突っ込んだら、容易な解答なり、これでいいと断言できるような方法は簡単には見つからないのだ。そのときあらためて思うのだ。性的な身体についてわれわれはなにを知っているだろうか。ほんとうに身体そのものの提示ができるのか。破綻を孕んだもっとも厄介な領域に入り込むことの困難さに立ち向かう芸術家によっても、性的身体は、なんらかの「方法」によって提示されているのである。この方法が身体を現象させ、知覚させるのだ。円満な両性関係も、明確な性差も、最初から論外である。芸術は分かり切ったことを再現してみせるものではない。芸術が投げかける視線、あるいは作りだしてみる行為は、われわれ人間にとってもっとも重要かも知れないが、まだ分からないままに留まっている領域を、なんの保証もなく探る思考に他ならない。性的身体、いや身体そのものも作家の数だけ多様にあって不思議ではないのだ。彼または彼女の方法だけから、身体はひとつの得体の知れない現象として出現しているのだ。われわれは、ひとりひとりの芸術家がどんな想像力を展開して、人びとを身体という謎に誘うかを経験するのである。その試みが失敗しても不思議ではない。芸術家も哲学者も性と身体については、これまで失敗を繰り返してきた。この辺で思い切って身体を提示する可能性への無謀な試みを見てもらいたい、そんな衝動が伝わってくる。しかもそれさえ繰り返しでないと断言できるのか。はちゃめちゃな混沌に陥ってもいいほど大胆さにわれわれは飢えているのだ。

人間の謎への問いの形象化

『デ・ジェンダリズム』というタイトルが目に止まる。ジェンダーという社会文化的に形成される性差をあらわす概念は、確実にこれまでの男性優位の社会にたいする女性側からの攻撃という政治的な意図を含んでいる。それは既存の文化を脱構築するものに違いないし、その上で性とはなにかの議論が試みられてもいい筈である。しかし現実になにひとつ解決されていない社会では、常に政治的な「友/敵」関係を生みだしてしまうのも否めない。そこでははたして性を孕んだ身体への問いが可能であろうか。『デ・ジェンダリズム』は、ジェンダー概念の政治的文化的重要性を否定しているわけではないが、芸術の探究するものは、ジェンダー概念の先にあるという、至極まっとうな主張から生じている。性の複雑さ、奇怪さ、そもそもの破綻や侵犯などを孕んだ身体をそのまま提示できるかできないかを、芸術固有の方法に見てみようとしているのである。身体そのままというが、それでもなお、なんらかの媒介、方法、物質を経由するのである。身体そのままとは言え、結局は芸術家の探究には、いろいろな手段がある。それを承知の上で、一切の理論的言説の彼方を目指すのだと言うなら『デ・ジェンダリズム』の主張には賛意を表明できる。ひょっとするとジェンダー概念が破壊していく世界の破片も、それらが見逃した肉体の屑も使いながら、人間の謎への問いを形象化することを言い表しているのかもしれない。

[たき こうじ/美術批評家]

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