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ギャラリー−2
東京アートフィールド
「ヨコハマ・ポートサイドギャラリー」

パブリック・アート、アートのパブリシティ
ヨコハマ・ポートサイドギャラリー
ヨコハマ・ポートサイドギャラリー
総ガラス張りの前面
槻橋 修

パブリック・ギャラリー

横浜ポートサイド地区は、商業・業務地区である「みなとみらい21」地区に隣接して、80年代半ばから整備されている都心型住居地区である。マイケル・グレイブス設計による超高層の集合住宅をはじめとした、いわゆるポストモダン建築によるウォーターフロントのジェントリフィケーションが行われている。スカイラインや色彩をデザイン・ガイドラインによって規制することでつくられる景観は、周辺にくらべて確かに清潔ではある。しかし計画サイドが言うような「アメニティ豊かな」都市空間というコンセプトは、建物の形状を規制するだけで実現できるほど簡単なものではない。
 またポートサイド地区は住宅地にパブリックアートが積極的に持ち込まれた、先駆的な事例でもある。地区の中心であるポートサイド入口交差点には、エットレ・ソットサスの屋外彫刻やグレイブスの巨大な壁画などが「アート&デザインの街」のシンボルとして設置されている。かなりボリュームのあるアート作品に対して、建築物があまりにも貧弱に見えてしまうのは否めない。建築物だけに適用されるガイドラインを設けたことが、ここでは裏目にでてしまっている。
 ヨコハマ・ポートサイドギャラリーは、この交差点に面したアトリウム(YCS:横浜クリエーションスクエア)の中にある。巾20m、奥行8m、天井高3.6mという、ギャラリーにしては相当大きなスペースをもっており、ヤン・ファーブルやジェームズ・タレルなどの日本初の個展を企画したのをはじめとして、比較的大がかりな展覧会を行っている。ギャラリーの前面は総ガラス張りで、交差点の作品群とガラスごしに向き合っている。ギャラリー内での展示が形式的にパブリック・アートに非常に近いものとなるという、まさにパブリック・ギャラリーなのである。個人のギャラリーよりも作家に自由度が与えられ、かつ美術館よりも柔軟に企画展を行えるのは、運営形態の特殊性によるものであろう。このギャラリーでは、YCSのオーナーである2つの企業が共同でギャラリーに出資しており、佐谷画廊や東京画廊など、現代美術を扱う5つのプライベート・ギャラリーが共同で、企画・運営を行っているのである。



入口交差点
地区の中心である
ポートサイド入口交差点



エットレ・ソットサスの屋外彫刻
エットレ・ソットサスの
屋外彫刻
パブリシティは空間に従わない

現在、タイの新進作家スパチャイ・サートサーラによるインスタレーション展が行われている。1995年から96年にかけて製作された、タイ国政府の潜水艦購入に反対するメッセージを作品にしたものである。97年には、訴えの甲斐なく、潜水艦購入が決定してしまったのだが、この展示はアーティストが行った運動のドキュメントとなっている。両腕で高々と潜水艦を持ち上げる将校の像。その足元には民衆の生活を象徴する籾がら付きのタイ米の山があり、周囲には出来合いの戦闘機やロボット、GIジョーなどのおもちゃが、伝統喪失のしるしとして、像を取り囲んでいる。上空を飛ぶ無数の弾丸、ヴィデオから流れる世界各地のニュース。政治的な意図があまりにストレートに作品化されているきらいは否定できないが、それはいわばアートとパブリシティとの、もっともシンプルで、かつ強力な関係を想起させる。しかもギャラリー正面の20mにおよぶ透明なガラス面を介して、政治的プロパガンダとしてのこの作品を街路からうかがえるという点が、交差点のアート作品と相まって、この関係をさらに浮き彫りにしている。
 ポートサイド地区の計画人口は6500人であるが、このギャラリーは地区の住民だけでなく、外部からも人を集めるように企画されている。つまり、パブリック・アートの実験場である交差点に面していながら、この空間に従属しない独自のパブリシティを獲得しようとしているのである。パブリックアートが社会化されるとすれば、それは局所的なパブリシティを対象とするものではなく、広くパブリシティ一般を射程に入れることのできる強度をそなえる必要がある。こうした根本的な議論を誘起する点で、このギャラリーの存在は単なる作品の器に終わっていない。
 パブリック・アートの議論が、パブリック・スペース(公共空間)という、近代都市計画の概念の上でしか一般性をもたないとすれば、それは作品の運用論にしかならない。常識に飼い慣らされないのがアートの存在意義であるとすれば、パブリック・アートはアート自体のパブリシティの問題に立ち戻ることから、器となっている空間自体を解体・再編するものとして、自律的に存在しなければならないだろう。



両腕で高々と潜水艦を持ち上げる将校の像
両腕で
高々と潜水艦を持ち上げる
将校の像



GIジョー
GIジョー




上空を飛ぶ無数の弾丸
上空を飛ぶ無数の弾丸
ヨコハマ・ポートサイドギャラリー
ヨコハマ・ポートサイドギャラリー案内図
ヨコハマ・ポートサイドギャラリー案内図
『スパチャイ・サートサーラ展』

会場:ヨコハマ・ポートサイドギャラリー
   神奈川県横浜市神奈川区栄町5-1
   横浜クリエーションスクエア(YCS)1階
会期:1997年7月18日〜9月24日
回廊時間:午前11時〜午後6時(木、祝日休)
問い合わせ:Tel.045-461-3033
写真:槻橋 修
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