2023年06月01日号
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アートプロジェクト探訪

アートのOSとしての都市/都市のアプリケーションとしてのアート──福岡の都市にみる文化創造の潜在的可能性について

久木元拓(首都大学東京システムデザイン学部准教授)2009年12月15日号

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都市とアートの相補性を改めて考えてみる

 私たちの日常の都市生活の基本は、人と人との関係性の構築であり、都市はその関係性のサステイナビリティによって成り立っている。それは情報、人、モノの交換が継続的に行なわれること、すなわち価値と価値との交換による関係性が延々と続けられるような恒常的社会システムを備えていることであると言えよう。そんな都市生活の関係性を構築し、影響を及ぼし続けるものは実際のところなんだろうか。それはその都市/地域に根付く生活の慣習であり、風習である。さらに言えば、それぞれの土地がもっている固有の雰囲気であり、歴史を背景にそれぞれの場所がもっている様相である。地霊(ゲニウス・ロキ)とも呼ばれるこうした特定の土地に潜む目に見えない対象物を前に、多くの建築家や都市計画家をはじめ研究者、アーティストはそれらといかにつきあっていくかに頭を悩まし続けてきたのが都市と芸術の歴史であると言っても過言ではない。アートもまた、そのなかから生まれ、育まれるものであると言えよう。都市/地域は「アート」でアイデンティファイされ、「アート」は都市/地域という環境のなかで形成されるものであり、両者は相乗的に生成されるものであるととらえられる。そのため今日のアートプロジェクトを考えていくうえで重要なのは、その発端とプロセスとアウトプットの現場としての都市/地域の、文化形成とプロジェクトとの関係性をとらえていくこととなる。言わば、人々のコミュニケーションを社会システムの中でとらえた新たな都市文化デザインの方法として、アートプロジェクトは位置付けられるのである。
 と言ったところで、これだけでは現状を準えただけでなにも語っていないのに等しい。アートの創造と都市生活の現状はもっと複雑で入り組んでいてかつ曖昧である。そのため、ひとまずアートと都市との相補性について先進事例とともに考えていきたい。やはりわかりやすい事例は、国際的な文化交流拠点と想定できる都市/地域、例えばNYブロードウェイ、70〜80年代のソーホー、そしてハリウッドなどである。これらはいわゆる世界の一流と言われる人材がそこを目指し、訪れ活動する、メッカとして機能する都市である。こうした都市はいかに形成、維持されているのだろうか。例えばかつてのソーホーにおけるアーティスト証明書の発行と居住政策などの政治・政策的視点、ハリウッドに見られる世界の消費者、ビジネスパーソンを引き付ける市場コントロールの視点、あるいは観光都市パリに見られるコンテンツとしての文化遺産、それぞれの都市におけるストリートカルチャー、サブカルチャーの文化的価値の生成伝播、そして都市のモビリティ、景観形成、通信網、文化施設整備などのインフラ形成を含む都市空間の相乗的な形成・発展のメカニズムなど、その錯綜する複合要素の相互作用を通じて都市のブランドは形成される。こうした視点を踏まえた新たな都市文化としてのアートプロジェクトの価値評価のあり方を考えていくことが、今日におけるアートプロジェクトを社会、経済、文化的視点から多くの人々に浸透させていくことにつながるのである。

福岡の都市の感覚と文化創造への認識の現状

 さて、ようやく今回のテーマである福岡の話となる。言うまでもなく福岡では、11月に終えたばかりの第四回福岡アジアトリエンナーレに代表されるアジア美術の拠点としての美術館の政策と具体的な活動の蓄積がすでに一定の評価を獲得している。また地域におけるアートプロジェクトの先駆けである1990年にはじまるミュージアムシティプロジェクトの実績は、今日の福岡のアート活動の基盤的存在となっているとも言えよう。
 筆者は、この春と秋に九州・福岡においてフィールドワーク調査を行なったが、特に福岡の都市の文化形成について興味深い人々の認識を確認している。特筆すべきは福岡の人々が福岡を知っている純度と、東京の人間が東京を知っていることのそれは、明らかに異なるということである。
 例えば世田谷生まれの人間が高円寺に一度も行かずに一生を過ごすことなど珍しくはないかもしれないが、中洲生まれの人間が天神や大名を知らないでは生活できない。これは、東京都区部850万人と福岡市140万人の人口規模の違いであるとは言えるが、それはそのまま都市認識の密度の違い、さらには文化生成の認識の違いとなるものである。

 福岡の文化形成、情報構築について言及するうえでの関連として、今日のICT企業の指向性の話をしておきたい。ITバブル崩壊後の今日のICT企業の事業ターゲットのベクトルは、ローカルへと向かっている。例えばかつてNYにはシリコンアレーと呼ばれるIT系企業群があったが、ITバブルの崩壊とともに消失の一途をたどる。しかしながらITバブル後も、NYは言うまでもなく消費拠点としての魅力はそのままであり、その市場を狙ってシリコンアレーと周辺エリアや郊外から東海岸北部の広範囲にわたってまた新たなITベンチャーの動きが出てきている。ただし、そこに登場するのは市場全体の独占が絶対的最優先事項だったかつてのIT戦略とは一線を画す、ビジネスアイディアとコネクションで勝負する企業群である。特に傾向として顕著なのがエリア限定、対象層限定のビジネスである。そこでの彼らは、金銭的な成功も求めはするが、自身のアイディアやビジネスモデルの正当性と先進性を世に知らしめたいという、積極的に社会貢献を打ち出していく意識が高いのが特徴的である。地域にこだわる理由も確実なリターンへの意識の高さからくるものであるとともに、都市に生きる人々の今日における生活感覚にも通じるのではないかと考える。

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久木元拓

都市文化政策、アートマネジメント研究者

2009年12月15日号の
アートプロジェクト探訪

  • アートのOSとしての都市/都市のアプリケーションとしてのアート──福岡の都市にみる文化創造の潜在的可能性について

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