このページでは編集部のスタッフが交代で、著者とのやりとりや取材での出来事、心に留まったこと、調べ物で知ったこと、考えたことなど、つらつら書いていきます。開設から30年近い記事がすべて読めるartscape。過去の記事も掘り起こして紹介させていただきたいと思います。読者のみなさまには箸休め的な感じで楽しんでいただけると幸いです。

ただいま銀座のメゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド[MMM]では、「AOMORI GOKAN アートフェス2024」特集を開催中です(8/31[土]まで)。それに関連して、栗林隆さんによる《元気炉》が5館を巡回する『Aomori GENKI-RO Trip』の最初の開催地である青森県立美術館に行ってきました。これは、「AOMORI GOKAN アートフェス2024」後半の目玉企画なのです。


青森県立美術館での栗林隆さんと《元気炉》

《元気炉》は原子炉の形状をした構造物に薬草の香りを帯びた蒸気を発生させ、観客が中に入る体験型の作品です。2020年から発表を続けて、今回展示しているのは4号機にあたるそう。

かつてタイでダイビングのインストラクターとして活動していた栗林さんは、体調が悪くなった際、薬草を用いたスチームサウナで体を癒していました。「この体験をいつか自分の作品のなかに取り入れたいという思いがずっとあった」という栗林さん。転機となったのは2011年の東日本大震災でした。

「現地の本当の状況を知りたかった」という栗林さんは、毎年のように福島に通います。はじめは恐る恐るでしたが、5年程通った頃から、地元の方々から元気をもらい励まされている自分に気づきます。そこで「原発を反対・賛成、白・黒の問題ではなく、もっと違うかたちで昇華させていくことはできないか」と考え、2020年に原子炉型の薬草スチームサウナ《元気炉》を発表しました。

最初はこの作品に名前はなかったのですが、初めて発表した展覧会でスチームサウナを体験した方々が元気になって帰っていく様子を見て「みんなの元気で回っている元気力発電だ! 原子炉じゃなくて元気炉だ」という流れで、この作品は《元気炉》と命名されたそうです。

初代の《元気炉》については金沢21世紀美術館の野中祐美子さんが、「キュレーターズノート」で「境界を揺さぶる《元気炉》──入善町 下山芸術の森 発電所美術館『栗林隆展』」と題して詳細を綴ってくださっています。また、村田真さんが「artscapeレビュー」でも取り上げてくださいました。このとき、《元気炉》の壁面は木造でした。ぜひ、その様子を上記の記事でご覧ください。

さて、いよいよサウナを体験することに。

サウナを囲む回廊をドキドキしながら歩きます。サウナのドアを開けると視界を遮るほどのスチームが! 中は3~4人が入れるスペースです。居合わせた方と「熱いですね」「いい匂い!」と会話を交わしながら笑顔で《元気炉》を楽しみました。


サウナを囲む回廊



サウナ内部



サウナを体験するスタッフ

使用する薬草は、各地域に自生するものを栗林さんがオリジナルにブレンド。レモングラスやくわの葉など、ハーブの香りが漂うミスト状のスチームを体験したあとは、薬草を煮出してできたハーブティーも楽しみました。


ハーブティーを汲みだす栗林さん。ハーブティーはあっさりしていて飲みやすい

栗林さんいわく「この作品は、見ただけでは知ったことにはならない。入ってもらわないと語れない」とのこと。スチームで視界が遮られると、普段は目から入ってくる情報が多いことに気づきました。ここでは匂いや音などが強く感じられます。また、実はこの《元気炉》、女性のリピーターが多いそうです。肌の調子がよくなったり、足のむくみが軽減されたりと、嬉しい効果があるとか。「そういうところも含めて、ぜひ《元気炉》を体験してほしい」とアピールされました。

青森県立美術館のトレンチにたたずむ《元気炉》


青森県庁ねぶた実行委員会囃子方とのコラボレーションによる音楽イベントも開催されました



夜になりライトアップされた《元気炉》

「AOMORI GOKAN アートフェス 2024」はいよいよ9月1日(日)まで。『Aomori GENKI-RO Trip』の各館巡回地でのイベントは盛り沢山です。ぜひチェックしてみてください。

8月1日(木)にMMMで開催したトークイベント「地域をつなぐアートフェスの在り方を探る ~AOMORI GOKAN アートフェス 2024から~」(出演は写真家で青森公立大学 国際芸術センター青森[ACAC]展覧会に出品中の岩根愛さんと十和田市現代美術館館長の鷲田めるろさん)はYouTubeの銀座MMMチャンネルでアーカイブを公開しています。ほかの編集スタッフによる記事「編集雑記……9──初夏の青森を巡る/新レビュアー紹介その3(山川陸さん)」やvlogもご覧いただけると幸いです。これからアートフェスに駆け込まれる方は、ぜひこちらを旅のプランの参考にしていただけたらと思います。(T)

vlog──artscape編集部による取材・リサーチの旅「AOMORI GOKAN アートフェス 2024」
1. 八戸市美術館エリア編 https://youtu.be/nJsyi09cuTg
2. 十和田市現代美術館エリア編 https://youtu.be/p-84qz6liNU
3. 青森県立美術館エリア編 https://youtu.be/kNa82ZII8fo
4. 青森公立大学 国際芸術センター青森編 https://youtu.be/lqTujugZ2Uc
5. 弘前れんが倉庫美術館エリア編 https://youtu.be/rEn6n2mI1rk