会場:茨木市文化・子育て複合施設 おにクル[大阪府]
公式サイト:https://www.onikuru.jp/

2023年11月に大阪府茨木市に開館した茨木市文化・子育て複合施設(通称「おにクル」)は、コンサートホールや図書館、子育て支援、多目的会議室、プラネタリウム、コワーキングスペース、市民活動センターなどさまざまな用途が融合した複合施設である。地上7階建ての建物と屋外広場からなる施設は伊東豊雄建築設計事務所と竹中工務店によって共同設計され、行政サービスに限定しない、市民や地域活動が発芽する拠点となるような市民の目線が取り込まれる空間のあり方を示している。 

「おにクル」吹き抜け空間[筆者撮影]

屋外の芝生広場公園からエントランスの開口部、「縦の道」と呼ばれる施設のフロアを貫通するようにエスカレーターが交差する吹き抜けが設計されている。明確なエリア分けがない各フロアを横断するように施設内の機能と異なるジャンルの本棚が複雑に配置され、離散的な空間の内外が立体的につながる伸びやかで遊び心のある動線に導かれるように、自然と歩を進めることができる。アイレベルが低く開放性がある一方で、階層ごとのボリュームが増幅されることでそれぞれの場所、階層が異なる景色を見せている。さらに人々が互いに作用しつつも干渉しない工夫として、各フロアに屋外テラスや身を隠すことができる背の高いソファ、本棚の一部を改修した半個室が存在する。絶えず他者の囁きが聞こえながらも自身の主体的な活動に触れることができる複数の居場所からは、まるで公園の中にいるような自由で新鮮な体験が生まれる。 

JRと阪急の近隣駅の中間に位置し、市役所にも隣接する優れた立地にあるこの施設は、2015年に閉館した元市民会館跡地と周辺エリアの活用計画から始まり、市民と共に作り上げていく「育てる広場」というキーコンセプトを掲げている。開館までのプレ事業として茨木市と市民が108回のワークショップを行ない、対話を重ねるなかで街に根付くかたちで築かれた結果、現在でも日々多くの人々が訪れる場所になっている。施設の利用主体は子育て世代であり、子供が主体的に遊びながら楽しみを発見する仕掛けが、施設の設計にもコンテンツにも見られる。木材ならではの形状や弾性を生かした空間づくりがなされた1階の屋内こども広場や2階の子育てフリースペースの周辺には、カフェや子育て支援センター、美術家の山城大督によるインタラクティブなメディアアートまで構えられ、子供と大人が安全に活動できる場が育まれる。また市民との対話の形跡として、施設内で使用されているブックストッパーや返却台をキャンバスのように見立てた子供の手によるペイントに、愛着の工夫が垣間見える。 

アーティストが制作した家具やパブリックアートにも好奇心を育む場所のあり方が示される。家具デザイナーの藤森泰司によって制作された、細かく裁断された木材の繊維方向を揃えて熱圧成型されたLSL材を使用した家具が各フロアの機能に応じて形を変えて点在し、円形ソファや本棚、入り口、囲いなどの役割を果たすベンチは活動を自然と誘発させ、想像力を育むようだ。テキスタイルデザイナーの安東陽子によるカーテンは、縦糸と緯糸から成る織物の構造を縦に伸びる空間へと解釈し、階ごとに異なるテーマの色彩を変化させることで、空間の個性を引き立たせる。また、パーテーション壁に代わる稼働式の仕切りとしてもカーテンが機能し、ホワイエと各種機能が用途によって組み替わる役割を果たす。現代アーティスト・ヤノベケンジの代表作《SHIP’S CAT》は藤森が制作した建物の柱を囲うようにくり抜かれたベンチの天板上に置かれ、施設屋外壁の南北には、コンクリート打ち放しの外壁に設置された彫刻家・名和晃平の円形作品《Cycle》の無骨さと、画家・井上直久がデザイン監修した読み聞かせスペース「おはなしのいえ」が対照的な風景を見せる。

「おにクル」南側壁面に設置された名和晃平《Cycle》[筆者撮影]

伊東豊雄がおにクルに添えた「日々何かが起こり 誰かと出会う」というキーワードが示す通り、内部に育まれた豊かな生態系を移動するなかで出会う発見と多数の小さな居場所に安らぎを感じることができる。人と人、生活と文化が相互に干渉しながら繋がり合い、さまざまな場所で同時多発的に人々の生活が絡まり合う機会が創出されることでユニークな場所が生まれている。2000年に竣工された伊東の代表作《せんだいメディアテーク》とも異なる、市民と共に築かれた「おにクル」には、20年代の公共のあり方を考えるヒントが多数詰まっているようだった。

★──「おにクル」という名称は公募で決定され、市内に住む当時6歳の男の子が命名した。まちのさまざまなところで目にする鬼のキャラクター「いばらき童子」から着想を得て、「怖い鬼さんですら楽しそうで来たくなっちゃうところ」という意味を込めたそう。

鑑賞日:2024/12/28(土)