30周年記念企画「30年間のアーカイブを読み解く」の記事をご執筆いただいた明貫紘子氏、坂本のどか氏と作田知樹氏、そして座談会「30年後のウェブメディアを構想する」に参加していただいた萩原俊矢氏、3名によるartscapeの「アーカイブ」をめぐる座談会。30年にわたるUIや構造、インターネットメディアそのものの変遷の話題からいよいよ今後の可能性へとトピックスが移ります。(artscape編集部)
(前編より)
イベントをアーカイブする
萩原俊矢(以下、萩原)──文化財やミュージアムのアーカイブ動向について言うと、各所で取り組みは増え、デジタルアーカイブの注目度は高まっています。
そんななか、Googleのアクセス解析ツールGoogle Analyticsが2024年にGA4に切り替わって、ページビューを廃し、クリックやスクロールなどをイベントとして計測するようになったのは象徴的です。行動がすべてイベントとして扱われる。ページ単位で計測するよりもユーザーの行動単位で計測した方が正しいというか、全部がイベント化したというような転換点をインターネットは迎えたんだなって思って。
明貫紘子(以下、明貫)──イベントベースという考え方は、私も重要だと思っています。私の専門であるメディアアートの場合、従来の作品目録の記述方法だけではあまり意味がありません。展示ごとに変わる場合が多いので、イベント単位で記録する方が意味を持つ。「いつ・どこで・どのように起きたか」というメタデータこそが本質となります。メタデータが内容と同じくらい重要だというのは、2013年、エドワード・スノーデンが明らかにしたことでしたね★1。ポラメンツの著書でも言及されている、いわゆる「use metadata(ユースメタデータ)」、私は「振る舞いのメタデータ」と勝手に訳したんですけど、すでに推薦システムなどでインフラ化しています。
萩原──動的なアーカイブに挑戦している事例は、非常に興味深い。
それに、個々のアーカイブを繋いでいくという観点では、SPARQL★2やオープンなAPIなど、異なるアーカイブ同士をデータレベルで接続する技術も整ってきています。民間の貴重な資料群も、そうした仕組みに乗せて広げていける可能性がある。そしてデータを繋ぐだけでなく、その情報がどう使われたのかまで視野に入れられると、もっと意味が出てくる。
過去のウェブサイトをそのまま残すことに積極的なartscapeだからこそ、今後はその情報がどう社会に受容されていったのか、というところまで残していけたら面白いなと思います。
artscapeの目的のひとつは、ウェブ閲覧を読者の美術館来訪の行動につなげることでもあるでしょう。たとえば、レビューを読んで美術館に行ったとします。その体験をSNSに写真で投稿したら、ネット上の情報が一度リアルな行動として外に出て、再びネットに戻ってくることになる。あるいは、アートワードで調べた情報をもとに論文を書いたとか。そういう広い意味での影響関係のイベント群を捉えられたら、真価が見えてくるかもしれませんね。
明貫──行動記録を分析して、行動変容を起こす、ということですね。

萩原俊矢氏(左)と明貫紘子氏(右)
──それは長年の課題です。「artscapeを見て美術館に来ました」というデータが取れないんです。一度リアルに離れてしまうと、追えなくなります。技術が進めば連携できて、「役に立っている」と示せるかもしれませんが、現状では難しい。そういう声を聞くことはできますが、数字としては出てこないんです。
明貫───展覧会サイトを閲覧したかどうかまでは、把握できますよね。
萩原──ただ、行動を記録するとなると、プライバシーの問題は避けられません。それに、仮にすべてのデータを取れたとしても、現実そのものを再現できるわけではない。そこで参考になるのが、早稲田大学の岡室美奈子先生らが提唱している「ドーナツ型アーカイブ★3」という考え方です。演劇は公演そのものを残せないため、衣装や舞台美術など周辺資料を残す。中心は空洞だが、周囲をアーカイブすることで全体像を浮かび上がらせる。行動のログもそれと同じで、実態そのものは捉えられなくても、さまざまな周辺情報を集めることで立体感のあるアーカイブやアクセス解析が実現できるかもしれませんね。
明貫──その概念は、アーキビストの上崎千さんも提唱されていました。メディアアートの資料整理でも、同じ発想で一緒に仕事をしました。
萩原──メディアアーティストのエキソニモ★4も、「メディアアート」は固定されることがないから、すこし期間の長いイベントとも捉えられるというようなことを言ってたのを思い出しました。まさにドーナツの中心が空洞であることを前提にした考え方ですよね。
作田知樹(以下、作田)──設計次第では、行動データに限らず、サイト内で完結する形でも測定できると思います。たとえば、展覧会情報ページに「行き方」へのリンクを設け、そのクリック数を計測する。

作田知樹氏
明貫──クリック数のデータは残っていないのでしょうか。
作田──現状ではそうした動線設計ではありません。ただ、目的が来館促進なら、共通要素として組み込むことは可能だと思います。
作田──レビューは終了した展覧会が多いですが、取り上げられた作家の過去作品や、今後の展覧会情報にリンクできるといいですね。現在は著者単位で関連記事を読めますが、作家単位で自動的に引き出す仕組みはありません。将来予定されている展覧会が表示されるような設計も考えられます。行動を促す方向に進化する余地はあります。
ビジュアライゼーションと著作権法のアップデート
明貫──過去記事はともかく、現在進行形の記事には導入できそうですね。
ところで、みどころキューブ® ★5は、DNPが開発したミュージアム展示システムですよね。
坂本のどか(以下、坂本)──みどころキューブは、「第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」(2021)期間中のワークショップ★6で体験したことがあります。仮想空間上にあるキューブの中に作品をマッピングできるのですが、キューブの縦軸・横軸に、作品の制作年代や作家の生年などを思い思いに設定できる、つまり、マッピングのルールを自分で決めることができるんです。ワークショップでは、参加者それぞれが自分のキューブにその年の受賞作品をマッピングしました。
東京国立近代美術館のエントランスには、美術館のコレクションをマッピングしたものが設置されていますね。
──まだ構想段階ですが、影山さんの連載「アート・アーカイブ探求」で集まった大量のデータをみどころキューブに入れられないかという話をしています。影山さんの記事は作家単位で、国内外を網羅しています。
明貫──artscape全体をアーカイブと捉え、記事をどうキュレーションするかという話ですね。過去記事を再編集する仕組みが社内にあるのは強みです。そのためには、情報の粒度を揃える必要があります。
作田──1999年にADSLによるインターネットへの常時接続サービスが開始され、深夜の「テレホタイム」を待たなくとも、いつでもウェブサイトの閲覧が定額でできるようになりました。それにより画像の扱いが大きく変わった。モニター解像度や接続環境の変化は、年表に反映されにくい重要要素です。
明貫──AIも、こうした時代背景を踏まえないと誤解します。
作田──artscapeは、2024年4月からの現行の第7期から号数がなくなり、毎日更新になりましたね。
坂本──そうなんです。メディアのあり方としては、かなり大きな変化だと思います。一方で、その前の第6期(2009年1月〜2024年3月)ですでにトップページは動的になっているため、サイトのつくりとしては、この時点で号数の必要性は希薄になっていたのではないかとも思います。あえて継続していた号という単位を、2024年のリニューアルでついに無くしたのだなと感慨深かったです。
──SNSの普及で、情報鮮度への要求が高まったためです。月2回更新では、レビューが間に合わなくなったんです。一般の人が先にレビューを出すような状況になりました。

坂本のどか氏
明貫──展覧会の数自体も増えていますよね。記事同様に展覧会のデータも重要です。
作田──イベント単位のログは残りにくい。イベントログを可視化できれば、artscapeに新しい価値が生まれるかもしれないですね。
明貫──AIには過去データ不足によるバイアスがあります。80年代以前の情報は極端に少ない。2023年の博物館法改正以前は、デジタル化は義務ではありませんでした。今後は、収蔵品以外のイベントログも重要になります。
作田──自主的な規模のものを含め、展覧会やアートプロジェクトに関わるチラシやリーフレットを収集してアーカイブする試みもありました。Art Autonomy Networkの嘉藤笑子さんが、長年続けていらっしゃいましたが、現在どうなっているのか……。
明貫──集めたものを持ち寄って共有し、アップロードして、最終的にはWikipediaのような形で公開できたらいいのでは。チラシやプレスリリースは、著作権のハードルが低いから比較的やりやすい。
萩原──デジタルアーカイブにおいては肖像権や著作権の問題が常につきまといますよね。デジタルアーカイブ学会が肖像権ガイドラインを公開していますが、事前に許諾を取る重要性は現場でも強く実感するところです。たとえば「NHKアーカイブス」には芸能人の顔がずらりと並んでいますが、あれは一体どうやって許諾を取っているのか気になりますね。
明貫──アメリカにはフェアユースの考え方があります。まず公開し、問題があれば下げるという、運用方法のハードルも比較的低いと思います。そのおかげで創作活動のみならず経済活動も圧倒的な広がりとスピード感が日本よりあると思います。
作田──著作権法は、利用形態が多様化するなかで線引きが難しくなっています。どこで線を引き、誰が決めるのが適切かという段階に来ていると思います。
個人的な考えですが、公共貸与権のように、利用状況に応じて対価を集め、作家に還元する「報酬請求権」へ移行する必要があると思っています。実際、オンライン授業では「授業目的公衆送信補償金制度」が導入され、学生一人あたり一定額が支払われ、作家に還元され始めています。利用を禁止するより、使われた分ができるだけ公正に権利者に還元される仕組みが重要だと思います。
ビュー数やイベント数など、カウントの方法も課題です。文化的アーカイブに関わってきた現場が、政策に関与する余地もあると思います。
明貫──著作権制度も、従来のメディア前提からアップデートが必要ですね。
作田──著作権は「文化的人権」にも関わる重要な権利ではありますが、不可逆的な技術革新や考え方の進化に合わせて、著作権と報酬の仕組みも更新されるのが自然な流れです。

通り道・思い出すための装置
作田──行動変容という視点は重要です。来館だけでなく、「知る」「調べる」という行動も変化しています。artscapeがきっかけとなり、行動を生んだことを測定できる設計は可能だと思います。
ほかのデータベースへ誘導しても構わないので、イベントが起きた事実を記録することが重要です。回遊性重視ではなく、開かれたプラットフォームとしての方向性もあり得ますね。
明貫──先日、artscapeに私たちの企画のクラウドファンディングの記事を掲載していただいたあと、公式サイトへの流入が急増しました。流入元は分析できます。artscapeを「通り道」として捉えることは可能です。artscapeはオンラインの「風景」や「場」をつくるメディアでもある。そのコンセプトを更新していくのは面白いですね。
萩原──バックナンバーを見ると、多くの人が関わってきたことがわかる。長く書き続けている書き手もいらっしゃいますよね。そうした人たちに過去の話を聞いたり、オンラインの風景や空気感の変化について尋ねてアーカイブに重ねていくこともできるのでは。
作田──ドーナツ型アーカイブの話で言えば、オーラルヒストリーは有効です。思い出を語り直し、ネットに載せ、コミュニティを生む。キュレーションとは別のアーカイブの方法論で、ナラティブな形にしていくことは面白い。
萩原──若い世代が聞き手として入ることで、時代をつなげられる。
明貫──アーカイブをもとに継続的な企画を組んでいく。キーワード、インデックス、オーラルヒストリーなど、思い出させる仕組みが必要ですね。
作田──長期連載は大きな財産です。思い出すための装置としてアーカイブを機能させる。AIを使って進化させる。調べたいと思わせるきっかけ作りが重要です。
展覧会のキュレーターに関連するartscape記事を再読してもらい、プロモーションに活用する方法も考えられます。
明貫──プライスレスな30年間の蓄積があるartscapeのアーカイブは、まさにさまざまな展開が可能ですね。

★1──エドワード・スノーデンは、アメリカ国家安全保障局(NSA)および中央情報局(CIA)の元局員。2013年6月、香港特別行政区で複数の新聞社にNSAによる国際的監視網(PRISM)の存在とその盗聴の実態と手口などを内部告発した。
★2───Web上の情報の意味や関係性を記述する国際標準モデル「RDF」に対して、さまざまな条件での検索や取得を行うための専用の言語。これにより、Web上に散らばるデータを横断的に検索・活用できる。
★3──岡室美奈子「舞台芸術アーカイブの現在と早稲田大学演劇博物館の取り組み 」(artscape、2024年10月10日)を参照。https://artscape.jp/article/22827/
★4──「メディアから考えるアートの残し方 第1回 エキソニモインタビュー」(artscape、2018年11月15日号)https://artscape.jp/report/topics/10150536_4278.htmlで、エキソニモによるメディアアートのアーカイブ化への考え方が述べられている。
★5──小林桂子「3Dデジタル技術がひらく、ニューノーマルの文化体験」(artscape、2021年06月01日号)を参照。https://artscape.jp/report/topics/10169151_4278.html
★6──「第24回文化庁メディア芸術祭 ワークショップ『文化庁メディア芸術祭受賞作品展をキュレーションしてみよう』レポート」https://mediag.bunka.go.jp/article/article-18661/を参照。
収録日:2026/01/19(月)
