発行日:2026/04/17
発行所:玄光社
公式サイト:https://www.genkosha.co.jp/book/b10166504.html

前編より)

通読し、特に多く名前が挙がっていたと感じたのは、宇野亞喜良(1934-)、木内達朗(1966-)、矢野恵司(1988-)だった。宇野はイラストレーターとして初の紫綬褒章受賞者であり、美術館での個展を開催するなど評価をすでに得ているが、前編でパイオニアとして名前を挙げた和田や横尾のように文筆を盛んに行なっていたわけではなく、比較的ピュアなイラストレーターとして半世紀以上途切れることなく仕事をし続けてきた。作風はもちろんそれを大きく変えずにここまで活動してきた持続性が支持を集めたのだろう。

池井戸潤『下町ロケット』シリーズの装画で知られる木内もまた、すでにベテランの域に入り、その継続性が評価を集める一因になっているだろう。選者である浦上和久(東京メロンボーイ/1983-)はアナログテイストなデジタルイラストを開拓した木内に対し「そのスタイルは多くの作家に影響を与え、いまではインフラのような存在になっています」★2と述べる。余談になるが浦上はほかにスカイエマ(生年非公表)、副島成記(1974-)を挙げており、それぞれに対するコメントから彼のイラスレーションに対する歴史観が窺え興味深い。もちろんこのことは、大なり小なりそのほかの選者にも言えることであり、各人の言及は特集の読みものとしての面白さに貢献している。

宇野、木内と比較して、矢野の活動開始は2017年とまだキャリアは浅い。しかし活動初期の蓬田やすひろ(1941-)や福井真一(1958-)を彷彿とさせるオーセンティックな「日本画風イラスト」から、キュビスム的造形を試みたり、よりポップで目を引く彩度の高い色彩を用いたりとここ数年さらに表現水準で広がりを見せている。モチーフも人物だけではなく、風景、静物と仕事ごとに対応してきた。つまり矢野は現在進行形でイラストレーターとしての力量がさらに増している最中にあり、そういったインパクトを含めて票が集まったのではないだろうか。その意味では、同じく何人かの支持を得た西村ツチカ(1984-)も近年のイラストレーション仕事の充実ぶりが影響していると思われる。

以上のようにやはり多くの支持を集めたのは、自らの作風と仕事に応じた対応力を持つ描き手であり、そういった観点から「同業者」としての評価が行なわれたのだろう。しかし1人につき3人挙げるというレギュレーションのため、うち1名はよりアーティスティックな観点から選ぶというバランスの取り方も見られた。海外の描き手を選出する場合も珍しくなく、日本のみならずグローバルなイラストレーションの断面図としても本特集は有用である。

ただ選者の世代が関係している部分もあるかもしれないが、美樹本晴彦(1959-)やいとうのいぢ(1977-)といったPixiv定着以前のマンガ・アニメ系のイラストレーターが管見の限りは見当たらなかった。もちろん寺田克也(1963-)の名前は当然のように挙げられていたが、やや距離感があることは否めない。そのため、少年少女向け小説領域への遡及がやや難しくなっていると感じたが、デザインをバックボーンに持つイラストレーションを中心に取り上げてきた雑誌としてそこに言及が乏しくなるのは致し方がない。とはいえ、選者それぞれにまったく異なる文脈が提示されているのは大変興味深かった。

また、「街では性差を極端に排除し記号化された人物イラストレーションが重宝がられ、ネットでは極端に性を強調されたエロが襲いかかってくる」★3という小池アミイゴ(1962-)のコメントのように、時代への批評を伴なったコメントも散見できた。その意味では、多様な観点から読まれうる特集になっているだろう。


★2──『イラストレーション』2026年6月号[No.250](玄光社、2026)p.14
★3──同上、p.29

執筆日:2026/04/19(日)