
会期:2026/03/14~2026/05/31
会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO[東京都]
公式サイト:https://sorayama2026.jp
(前編より)
このように空山の仕事は、日本国内のスーパーリアル系イラストレーションの到達点として記録されるものであると同時に、現在では現代美術の文脈にも接続し得るものであるのだが、彼のキャリアは商業イラストレーションからアートへと単線的に変遷していったものではない。そのことを示すのが、インスタレーション的なプレゼンテーションのセクションの後に続くイラストレーションの原画と、コラボレーションの数々だ。
空山は99年にコンセプトデザインを担当した犬型家庭用ロボットAIBOが話題となるなど、国内においてその存在感を示していなかったわけではないが、先にも述べたように80年代以降、海外での作品集発売や雑誌へのイラストレーション提供によって国外の知名度を高めていった。
[筆者撮影]
そしてそんな海外での受容が、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの双方でなされていたことは見逃してはならないポイントだ。『ペントハウス』での仕事はすでに触れた通りであるが、2001年にはエアロスミス『Just Push Play』のアルバムジャケットや、21年にはザ・ウィークエンド『Echoes of Silence』のミュージックビデオ(Youtube)を担当し、オーバーグラウンドのポップミュージシャンとのコラボレーションを行なっている。その一方で08年にアメリカを巡回した空山も参加したグループ展「CARNIVORA」の会場となった3つのスペースは、それぞれコミックやイラストレーションとも親和的なロウブロウアートだったり、音楽カルチャーとも近いアンダーグラウンドな場所だった。
空山が美術家としての活動に本格的に取り組みはじめたのは、現在マネジメントを担当しているギャラリー・NANZUKAによる後押しが大きいが★4、同ギャラリーで初個展を行なう2010年以前の時点において空山はすでに、そのクリエイションが──コンテンポラリーアートとはやや異なる──複数の文化的階層、領域で国際的に認められいたのである。そしてここで注意したいのは、そうした複数の評価軸の獲得において、空山の仕事がまったくぶれていないことである。彼が作り出すのはいつも、人物を中心に配し、それをロボットとして描いたり、官能的に描いたりしながら、関連するモチーフを組み合わせる構成的には単純なものだ。しかしそのシンプルさこそが結果的に、専門ジャンルにありがちな狭量なコンベンションとの良い意味での距離感として作用したのではないだろうか。展示の終盤では、ディオール、ディズニー、メディコム・トイとハイカルチャーからポピュラーカルチャーまで幅広い分野でコラボレーションしたプロダクトが並べられており、そのビジュアルアイデンティティの強度は際立つものが認められる。
[筆者撮影]
このように空山は商業イラストレーションを出発点にアーティストとしての作家性を認知させつつも、美術に閉じこもらずに今もなおクリエイターとして多様なジャンルと関わりを持ち続けているが★5、彼の展示の多くがそうであるように、この度の回顧展もキャプションは会場に掲示されておらず、言葉による説明はかなり少なかった。そのため、ここまで述べてきたような出自や海外受容の細かい文脈を、一般の観客が読み取ることは難しかっただろう。
しかし一方でこの補助線の少なさは、そうした「ごたく」を一切省いても、自身が作り出すイメージとフィギュアのみで、キャリアに説得力を持たせることができると空山自身が考えているからに他ならない。空山は都築響一との対談で都築の活動に対し、エロティシズムやグロテスクな物を「現代美術というオブラートに包んで表現」していると指摘した。確かに彼は、ラブホテルのデザインやアウトサイダーアートをカウンター的にアートとして紹介する仕事を行なっているが、それと対比するように、空山は自身のスタンスを次のように述べている。
「僕は高い描画技術で品よく描けば、イラストレーションでもそのハードルを越えられるんじゃないかって。そういう興味が個人的にあるんだよね★6」
この発言は15年の作品集でのものであるが、空山のこうした技術への信頼は80年の座談会でも自らを「技術屋さん★7」と称しているように、キャリアを一貫して変わらないものだ。どのようなジャンルで発表するにせよ、腕一本で勝負してきた彼の姿勢は変わらない。ストイックであると同時にフェティッシュな造形感覚を徹底することによって、グローバルな文化に介入してみせた彼のキャリアは、日本のイラストレーション史にとって破格のものだと言えるだろう。
★4──この点について詳しくは、次のNANZUKA・南塚真史のインタビューを参照のこと。「NANZUKA UNDEROGROUNDとは?」(『HONEYEE.COM』)2021.11.29公開(https://honeyee.com/detail/73625)
★5──奇しくもこの度の回顧展と同時期に、日本人ロウブロウアーティストの雄・Rockin’Jelly Beanと、マンガ・イラストレーションのサブカルチャーとしてのアイデンティティを体現し続ける寺田克也に空山を加え不定期で開催されているグループ展「3バチ展」がヴァニラ画廊にて開催された。なお、同展の第4回目では、『攻殻機動隊』シリーズ原作者である士郎正宗もゲスト出品した。
★6──『空山基作品集 セクシー・ロボット・ギガンテス』玄光社、2015、114頁
★7──「イラストレーター稼業ってなに?」(『イラストレーション』8号、玄光社、1980、54頁)
参考資料
・空山基『SORAYAMA THE GYNOIDS SUBLIME』PAN-EXOTICA、2026
・「時代を駆け抜けるリアル・イラストレーター 空山基」(小田島等監『1980年代のポップ・イラストレーション』アスペクト、2009、87~90頁)
・塚田優「イラストレーションと写実性(前編)」(『The Graphic Design Review』)2022.06.15公開(https://gdr.jagda.or.jp/articles/52/)
鑑賞日:2026/05/01(金)