会期:2024/04/11~2024/06/16
会場:東京オペラシティアートギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.operacity.jp/ag/exh273/

もう20年近く前になるが、宇野亞喜良にインタビューした際、原稿中に私が使用した「イラスト」という言葉に対して、「いまはそうした言葉を使うことも理解しているが、正しくはイラストレーションである」ことをやんわりと指摘された覚えがある。私が無知だったゆえの間違いだ。彼はデビューして間もなく、1960年代に日本でイラストレーションという言葉を広め、それを軸に活動し、時代を牽引してきたイラストレーターだけに、おそらくこの点だけは譲れなかったのだろう。以後、私は安易にイラストという言葉は使わないように気をつけてきた。


演劇実験室◎天井棧敷公演『星の王子さま』ポスター(1968)©AQUIRAX

本展は、御年90歳となる宇野亞喜良の初期から最新作までの全仕事を網羅する、過去最大規模の展覧会だ。プロローグでは学生時代に描いたというスケッチやクロッキーなどの作品が掲げられているのだが、それらを眺めると、若い頃から絵画の基礎を叩き込まれていて、相当に画力があったことを思い知る。が、その後、宇野は画家ではなく、日宣美(日本宣伝美術会)で入選を果たすなどしてグラフィックデザイナーの道を歩む。戦後復興期から成長期へと進み出した1950年代の日本で、グラフィックデザイン業界は過渡期にあった。彼の眼にはそれがきっと、どんなことにも挑める新しい分野に映ったに違いない。宇野はイラストレーションをベースとした企業広告に携わった後、さらにアニメーション映画やポスター、絵本・児童書などで作家性の強い仕事をこなしていく。そこであの独特のファンタジーやエレガンス、エロティシズムといった世界観を構築するのだ。


「カルピス」(カルピス食品工業)広告原画(1956頃)刈谷市美術館蔵 ©AQUIRAX


『あのこ』原画(1966)©AQUIRAX

本展を観て改めて感じたのは、宇野が非常に幅広い作風をもっていたということだ。恐怖さえ感じるエロティシズムもあれば、ほのぼのとした温かい感じやコミカルなタッチもある。器用であるがゆえに、クライアントの要望や案件に律儀に応じてきたことが伝わる。そう考えると、宇野の作品のイメージをつくり上げてきたのは世間のニーズなのではないか。エロティシズムを真っ向に描けるイラストレーターが少なかったことも影響しているのだろう。後にも先にもなかなか現われることのない稀代のクリエイターだと痛感する。

「活路」(『週刊現代』1994年7月30日号)原画(1994)刈谷市美術館蔵 ©AQUIRAX

鑑賞日:2024/04/27(土)


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