会期:2026/03/14~2026/05/31
会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO[東京都]
公式サイト:https://sorayama2026.jp

確かな技術によって描かれるリアルな絵画、世界中のクリエイターから寵愛を受ける「セクシーロボット」の彫刻、そしてファッションブランドとのコラボレーション。これらによって構成された空山基の個展「SORAYAMA 光・透明・反射 —TOKYO—」は、そうした作家の長きにわたるキャリアを総覧するにふさわしい展示だった。

会場に入りまず登場するのは、大型の絵画作品の数々である。展示のあいさつ文によると、これは「過去の作品データを再構築・高精細出力したキャンバスに、作家自身が加筆」を行なったものである。空山は1970年代よりフリーランスのイラストレーターとしてキャリアを開始し、90年代前後から海外にも活動の幅を広げ、展示も数多く行ないながら、自らのストイックな取り組みを周知させてきた。その最も目立った功績は、ロボットの造形美を突き詰め、昇華したセクシーロボットである。女性の身体をメタリックなきらめきとともに描いたこれらの仕事は、70年代後半から80年代の日本のイラストレーション史にとっても重要なものだと言える。

[筆者撮影]

当時日本のイラストレーション界は、高い技術力で対象を緻密に描く「スーパーリアル」が一大勢力を成していた。60年代に横山明らが先駆となり、70年代前半に山口はるみが火付け役となったこれらのイラストレーションは、デザインの作品化という内圧と、印刷技術の向上により台頭する写真という外圧の双方にイラストレーションが応答するために生まれたスタイルだった。

その特徴は、60年代後半から70年代にかけてアメリカに登場したチャック・クロースらに代表されるフォトリアリズム(スーパーリアリズム)とはまた異なるものとして一般的に語られる。主観を排して写真のように描くフォトリアリズムに対して、日本のイラストレーションにおけるスーパーリアルは、各作家のこだわりが表現されたものだ。滝野晴夫の重厚なドラマツルギーや、斎藤雅緒の迫真の水滴描写など描き手によってその力点はさまざまである。そのようなシーンにあって、空山のセクシーロボットの登場は福井真一をして「フォトリアル本来の『主観を排したニュートラル』とは対極の出来事であった★1」と評されている。

例えばそのことは、空山の描く金属に覆われた身体の映り込みを見ればわかるだろう。彼の描く金属の身体は、その映り込みが完璧に描かれているわけではなく、1981年のメイキング記事ではそのことについて触れられている。また、映り込みの色も背景とは関係のない青が使われるケースがあると同記事では明かされている。このように量感を示すための映り込みの取捨選択や、「空は青い」という私たちの視覚的慣習を逆手に取った演出も織り交ぜつつ、要所では実際にライターなどの映り込みを観察描写しながら描かれるのが、空山のセクシーロボットなのである★2。そしてこうした表現への志向があったからこそ、そのイメージは「日本のスーパーリアリズムのあり方を決定づけた象徴★3」として歴史的な評価を与えられてきたのだ。

[筆者撮影]

しかし80年代に入り、イラストレーションの流行は湯村輝彦や日比野克彦の人気もあり再現的描写よりも──少なくとも見かけ上は──奔放な表現主義へと移り変わっていく。その一方で当時の空山は、国内外の版元から画集を出版し、ファンベースをグローバルに拡大していった。そして日本と比較してリアル系のイラストレーションのジャンルが確立されており、バリエーションもあるアメリカもメインの活動場所として加わることになっていく。94年に大衆男性向け雑誌の『ペントハウス』にて特集が組まれ、翌年から同誌でピンナップイラストレーションの連載が開始される。この度の個展では『ペントハウス』に掲載されたような煽情的な女性像の数々も大型絵画として展示されており、空山のセクシーロボット以降の展開も一覧できる機会となっていた。

[筆者撮影]

そしてその後に続く展示室では一転、近年展開されている彫刻を中心としたインスタレーションが続く。ここでは空山のセクシーロボットたちが立体化し、作家の世界観が文字通りの意味で現前することになった。ガラスケースに収められた作品では、ケース内側の壁面のミラーに内部の彫刻が反射することで、セクシーロボットが無限に増殖しているようにも見え、没入感が増幅されている。人型のロボット表象はフリッツ・ラング『メトロポリス』(1927)などの先行例があるが、空山は女性の肉体の柔らかさを、金属という無機質なもので表現する。そんな造形美の新たな可能性を開拓したという事実が、これらの彫刻作品からは看取されるだろう。こうした非人間と人間が混淆するような身体性は、サイバーパンクやダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」(1985)などとも共鳴し、彼の仕事を広く視覚文化史や思想史に紐づけるのだ。

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★1──福井真一「スーパーリアル」(『美術手帖』2010年1月号、美術出版社、2010、62頁)
★2──「SEXY RBOT 空山基・薄めた絵の具を重ねてゆく透明描法」(『HOW TO DRAW リアル・イラストレーション』玄光社、1981、37~47頁)
★3──前掲★1

鑑賞日:2026/05/01(金)