会期:2026/03/27~2026/08/09
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2[東京都]
公式サイト:https://www.2121designsight.jp/program/soup/
「スープを入り口に、衣食住の根源を見つめる」という着眼点はとてもユニークだと思った。衣と住が身体の外側の環境で、食が内側の環境であり、いずれも「身体を包む行為」と捉える発想はこれまで考えもしなかったけれど、言われてみればそのとおりである。さらにその視点は母体へと移り、「生まれる前の私たちは、母体という“住”、胞衣(えな/胎膜・胎盤など)という“衣”、そして羊水という“食”に」包まれていたというメッセージを掲げる。展覧会ディレクターを務めた遠山夏未は、イッセイ ミヤケで衣服のデザインをする傍ら、そうした考えに至り、著書『ポタージュ──野菜たっぷり家族のスープ』(池田書店、2014)を上梓するなど、スープに着目した活動を行なっている人物だ。食から人間や社会を取り巻く環境を考える試みはよくあるが、食という漠然とした概念より、スープという最小限のコンテンツをてこにする方が断然伝わりやすい。そしてスープといえば、誰もが湯気の立った温かなイメージを抱きやすいという点で、会場全体が何ともいえない幸福感に満ちあふれていたのである。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー2 ISSEY MIYAKE+林響太朗+長尾智子《色をまとい、色を味わう ―身体を染める色と味―》(部分)[撮影:木奥恵三]
ギャラリー1では「包まれる」と題され、遠山夏未+岡篤郎+NOTA&design(加藤駿介、加藤佳世子)によるインスタレーション《はじまりのスープ》が展示されていた。本展に通底するテーマがまさに体現されており、それは息を呑むほどの迫力だ。ギャラリー2では「集まる」と題された空間に、和紙に土を混ぜ込んだ土紙による屋根が天井から吊るされ、映像による“火”も灯されて、そこに原初的な住まいの姿を見ることができた。大きな布の敷かれた“座敷”に靴を脱いで上がると、卓上ではさまざまなクリエイターが持ち寄った「旅とスープ」の思い出に触れることができる。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1 遠山夏未+岡篤郎+NOTA&design(加藤駿介、加藤佳世子)《はじまりのスープ》[撮影:木奥恵三]

展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー2[撮影:木奥恵三]

展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー2 佐藤政人《世界のスープ図鑑》[撮影:木奥恵三]
しかし、なんだろう。鑑賞後、何か心に引っ掛かったのは、これらの牧歌的な展示作品と現実との間にあまりに隔たりがあるからに違いない。実際には食を取り巻く社会環境は非常に複雑を極めている。世界のあちこちで農薬や化学肥料などによる土壌汚染や生態系破壊は進んでいるし、食のグローバル化の促進によってフードマイレージも高まっている。食への根源的な意識を向けさせるという点では、本展は成功しているのかもしれない。さらに、ここから一歩進んだ行動を起こせるか否かが、我々に仕向けられた試練ともいえる。
鑑賞日:2026/05/28(木)