会期:2026/06/12~2026/07/12
会場:TAV GALLERY[東京都]
公式サイト:https://tavgallery.com/kentacobayashi/

西麻布のTAV GALLERYで小林健太の個展「“TOKYO”」が開催された。小林は「#smudge」シリーズで、デジタル写真にフィジカルな指の触覚感や運動のイメージを導入し、写真というメディアの視覚性を拡張する作家として知られる。本展ではリコーによる反立体のインクジェット技術「StareReap(ステアリープ)」を用いたシリーズなどのほか、新作「“TOKYO”」のプリント3点と同シリーズが収められたクリアファイルを見ることができた。

「“TOKYO”」展[筆者撮影]

4センチ幅ほどの亜鉛メッキ鋼板で囲まれたプリントを、分厚いアクリルブロックを重ねたものと一瞬見紛う。充満した空間を錯視させる額装も、参照源から擬似的な画面を生成するAI写真の展示に適しているように見える。

東京という都市のイメージをAIで出力したという本作は、多くが路上の景色を示している。白黒の作品だが、プリントでは紫色を帯びた黒が艶めいて美しい。3つ並ぶ信号のライトは正円でなく、車のサイドミラーのような弧を描いている。ビル群の隙間には日本列島のシルエットが浮かぶなど、人為的な解釈では起こりづらいフォルムや観念的な像が見て取れる。


「“TOKYO”」展[筆者撮影]

本作の参照源には、デプスマップと呼ばれる被写体とカメラとの距離を画像内の深度情報として数値化するデータが用いられている。デプスマップは画像として書き出されるとき、被写体を立体的にシルエット化したようなグレースケールの像として現われる。深度値に変換がかかっているものの、「“TOKYO”」シリーズにおいて、この特徴はほとんどそのままの見え方で残されている。その濃淡の印象は、フィルム写真における印画紙と像を焼き付けるランプの関係、そしてそれを光の濃淡として視覚化するフォトグラムを思わせる。デプスマップのグラデーションが奥行きに応じて濃淡を変えるように、フォトグラムもまた光の届く距離をグレースケールで示す。

もとよりAIによる画像生成は、デジタル写真よりもフィルム写真を現像する感覚に近い。透明の薬剤に白い印画紙を沈めると像が浮かび上がってくる、そうした暗室体験の再帰がある。画像生成は学習元の精査さえ可能ならば、写真表現を前向きに更新するメディアとなるだろう。

本シリーズは作家自らが都内で撮影した写真やデータを参照元に、それらと生成モデルが内部知識として持つ東京のイメージをかけ合わせて制作されたと思われる。その際、AIを用いて新規的なイメージを表現するのでなく、むしろフォトグラムやオプティカル合成といった既視感のある表現と、図像を強引にまとめるという現時点のAIの特徴を合わせることで、過去の蓄積を参照するという画像生成の方法論自体を浮かび上がらせる。それによって写真家がカメラを介して向き合う外界というものが、生成モデルが蓄える膨大な人々の痕跡やオンライン上の情報領域にまで拡張されたことを物語っている。

「“TOKYO”」展[筆者撮影]

鑑賞日:2026/07/02(木)