会期:2024/02/06~2024/04/07
会場:東京国立近代美術館[東京都]
公式サイト:https://www.momat.go.jp/exhibitions/556
「来たるべき言葉のために」「風景・都市・サーキュレーション」「植物図鑑・氾濫」「島々・街路」「写真原点」という5章構成の展覧会の出品点数は400点あまり。これまで開催されてきた中平卓馬展のなかでも、規模、内容ともに最高レベルの回顧展である。展覧会の構成、作品のレイアウトもよく考えられており、若い世代の観客にとっても、写真作家としての中平の仕事をトータルに把握できる意義深い展示となるだろう。
いくつか気づいたことがある。ひとつは、特に1960年代末から70年代半ばの中平の仕事における、雑誌媒体への作品掲載の重要性である。この時期、中平は印画紙へのプリントよりも、むしろ印刷物のほうにリアリティを感じていたのではないだろうか。インクと網点によって浮かび上がる像にフェティシスティックに反応し、エキサイトしている様子が展示物から伝わってきた。もっとも、中平が篠山紀信との共著『決闘写真論』(朝日新聞社、1977)に記しているように、彼は70年代初頭に自らのネガやプリントを大量に焼却しており、展示しようにも現物がなかったということはある。だがそれだけではなく、この時期、中平は印刷物の持つ視覚的な挑発力を最大限に利用しようとしていたように見える。
もうひとつは、コンセプチュアル・アーティストとしての中平の活動を、もっと積極的に評価すべきではないかということだ。1971年のパリ青年ビエンナーレに出品され、日々の撮影行為をそのまま提示した「サーキュレーション──日付、場所、行為」展、東京国立近代美術館で開催された「15人の写真家」展(1974)に出品したカラー写真48点組の「氾濫」、1976年にパリのADDA画廊で開催された大石一義、武藤一夫との三人展に出品した《デカラージュ》などは、明らかに写真作品というよりはコンセプチュアル・アートの側面が強い。特にギャラリーのコーナーを天井から床まで18枚撮影し、それらを数10センチ横にずらして壁面に貼り付けた《デカラージュ》の思考実験は、中平が現代美術の領域に踏み込もうとしていたことをよく示している。
中平卓馬の全体像は、その意味で、まだ不分明なところが多い。彼の作品世界にまつわる謎は、逆に本展でより深まったようにも思えた。
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中平卓馬『サーキュレーション──日付、場所、行為』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2012年06月15日号)
鑑賞日:2024/02/11(日)