会期:2024/02/07~2024/03/02
会場:スタジオ35分[東京都]
公式サイト:https://35fn.com/exhibition/yamatani-yusuke-photography-exhibition/

DMやウェブの広報ページで本作を最初に目にしたときには、ライアン・マッギンレーの『Moonmilk』(2009)のようなテイストの作品ではないかと思った。裸体の若い世代の男女の姿を、鍾乳洞を背景にのびやかに描き出したマッギンレーの写真集の、温泉ヴァージョンという雰囲気を感じとったのだ。

だが、実際にスタジオ35分での展示を見ると、その印象はかなり違ったものになった。22点の作品のうち、大判プリントを含むカラー写真の数はかなり少なく、大部分は8×10インチほどのサイズに引き伸ばされた、ややウェットな感触のモノクローム写真だったからだ。山谷はこのシリーズをもう10年あまり続けているのだという。最初は家族や友人たちとの温泉旅行の副産物だったのだが、撮り続けているうちに火山の多い日本の風土、地勢において、温泉が重要な意味を持つ場所であることに気づいた。さらに、温泉そのものの佇まいだけではなく、人々がその特異な空間の中でどんな振る舞いをするのかにも興味が移っていったということだろう。

その意味では、このシリーズはこれまで多くの日本の写真家が撮影し続けてきた「温泉写真」の系譜のなかに位置づけられそうだ。濱谷浩、千葉禎介、北井一夫、村上仁一、そして漫画家のつげ義春らが撮影した「温泉写真」の名作が頭に浮かんでくる。むろん、彼らの写真と山谷の本作では、時代も撮影のスタイルにもかなりの隔たりがある。とはいえ、山谷の写真を見ているうちに「温泉と日本人」というテーマを撮り進めていくことで、まだ意想外のイメージが出現してくる可能性があるのではないかと思えてきた。

鑑賞日:2024/02/28(水)