これまでさまざまな角度からデジタルアーカイブの風景を見てきたが、その基礎にあるのはミュージアムであった。一方、図書館の起源はミュージアムより古く、そもそもの始まりからアーカイブに深くかかわっている。図書館というものを広く考えるならば、大名など旧家の名前がついた「文庫」もそういうアーカイブのひとつということができる。
図書館全体を眺めて見ると、わが国ではその頂点に国立国会図書館があり、それは献本制度に支えられ、戦後にできたものとはいえ、出版物についてはその網羅性は抜きん出ている。またデジタルアーカイブに関してもそのリーダシップは強く、目録レベルでのOPACの普及、貴重書のデジタル化と画像公開、電子雑誌的なウェブサイトの定期的アーカイブ(WARP)など、多岐にわたる推進活動が続けられている。ただ国立国会図書館の活動はすでに有名でもあり、ここであげたサイトを見ればその全貌はよくわかる。
次に自治体の図書館においては、末端の図書館が新刊の貸し出し業務に追われるところが多いものの、いくつかの県立図書館などにおいては、デジタルアーカイブが意識されている場合もある。
しかしここでは、この間顕著な増加を示してきた大学図書館のデジタルアーカイブについて注目すべきところを紹介してみたい。なぜなら自治体と比べても大学というものは多様であり、それを反映して大学図書館、そしてそこで展開されているデジタルアーカイブについても興味ある様相を見ることができるからである。
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さて前置きはこれくらいにして、今回はまず画像アーカイブの魅力を味わえるものから紹介していこう。
最初は長崎大学附属図書館である。
ここの「電子化コレクション」から入っていくと、「写真は長崎から」始まったというとおり、「幕末・明治期日本古写真コレクション」、「日本古写真超高精細画像」は楽しく壮観である。初期の有名写真家による長崎および日本各地の景観、風俗は興味深い。また外国人が撮った写真における女性風俗も面白い。さらに「グラバー図譜」の魚の絵、「医学は長崎から」という「近代医学史デジタルアーカイブズ」においてシーボルト「日本植物誌」などをネット上で閲覧できる意義は大きい。このように日本の写真の起源からしばらくの期間の写真をまとめて保存したものからは、記録というもの、記録としての写真がもつ意味、その公開の意義が明確に伝わってくる。
提供形態にも工夫があり、例えば「幕末・明治期日本古写真超高精細画像データベース」では、通常の「お薦め画像」、「条件を設定して検索」の他に、「全国地図から検索」、「長崎古地図から検索」があって、後の二つはここの豊富なサンプルを素人が味わうのにも適している。 |
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左:長崎大学附属図書館ホームページ
右:幕末・明治期日本古写真超高精細画像データベース |
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次に奈良女子大学附属図書館を紹介しよう。ここが提供する「画像原文データベース」と「奈良地域関連資料画像データベース」は、大学図書館が外部に公開しているデジタルアーカイブのなかで最も優れたもののひとつである。
「画像原文データベース」には、「伊勢物語の世界」(16点)、「江戸時代紀行文集」(27点)のような古文書(中には絵もある)のアーカイブとあわせ、ここの教授であった世界的数学者 岡潔の自筆論文遺稿など関連資料、さらにこの大学の歩みを示す雑誌などがあり、なかでも「画像で綴る奈良女子大学の九十年」は学校史、教育史であると同時に貴重な風俗史にもなっている。多くの歴史ある大学が同種の試みを実施することを期待したい。
一方「奈良地域関連資料画像データベース」では、この地域の元興寺、春日大社などの寺社にある絵図、絵巻など貴重なものが高画質で提供されている。特に「元興寺極楽坊縁起絵巻」など、画面の移動、拡大時の速さ画質など秀逸である。また生駒山寶山寺の「柳生剣法許状」もこの種のものを見る機会が少ないだけに貴重であり面白い。
長崎大学と奈良女子大学に共通して言えることであるが、このように大学とその地域を意識したデジタルアーカイブは、その存在意義もわかりやすく継続にも有利ではないだろうか。しかも通常の絵画であればミュージアムに行けば展示されているものを見ることができるが、ここで扱われているようなものはその機会もまずなく、特別に見せてもらったとしても、ここの画面を前にするように余裕を持って鑑賞することはできない。デジタルアーカイブの強みを証明したものであろう。
このほかの特徴ある大学図書館の紹介、この分野特有の問題点などについては次回触れることとしたい。
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左:奈良女子大学画像原文データベース/右:奈良地域関連資料画像データベース |
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2006年7月 |
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[ かさば はるお ] |
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