前回の長崎大学附属図書館、奈良女子大学附属図書館では、所蔵品と地域との関連に必然性をうかがわせながら、ミュージアムのデジタルアーカイブを凌ぐほどの魅力を垣間見ることができた。
今回は大学ごとに特徴あるデジタルアーカイブというものの多様な姿を、さらに眺めてみたい。
まず地域との現実的なかかわりで、地震災害との関連に注目してみる。
大阪市立大学学術情報センターでは阪神大震災画像のデータベース検索を提供しており、このページから登録が必要ではあるが、研究・学習目的などに限り閲覧を可能としている。
また神戸大学附属図書館においてもそのデジタルアーカイブの中に上記災害に関する「震災文庫」があり、静止画、動画を含むさまざまな関連資料を見ることができる。
これらはもちろん見て楽しむものではないが、時代背景を語るものとして、間接的にさまざまなデジタルアーカイブと関係を持ってくると考えられ、この時期に整備が進んでいることは評価されてよい。 |
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左:大阪市立大学学術情報センター「阪神大震災画像のデータベース検索」
右:神戸大学附属図書館「震災文庫」 |
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次に各大学にゆかりのあるコレクション、その大学の専門とする分野に関係が深い貴重資料など、特徴あるデジタルアーカイブには、研究者ならずとも興味を惹かれるものが少なからずある。
富山大学附属図書館中央図書館には「ヘルン文庫」がある。ヘルンつまりラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の旧蔵書を遺族から譲り受けた人の寄贈に基づくものである。
この文庫をもとにして平成11年〜12年、ハーンゆかりの地にある島根大学附属図書館と熊本大学附属図書館を加えた三者が協力し、ラフカディオ・ハーン・データベース作成事業が実施された。ここではヘルン文庫画像データ(富山大学)、ラフカディオ・ハーン著書全文検索(熊本大学)、小泉八雲研究文献目録(島根大学)が結びつき、ハーン総合検索というものを可能にしている。
それぞれのデータベースはもちろん現代の技術のおかげであるが、この3つをあわせたものはまさにデジタルアーカイブとネットワークというものの恩恵であろう。
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女子栄養大学図書館「栄養と料理デジタルアーカイブス」 |
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このほかにも、ユニークなコレクションを公開しているものがいくつかある。
東京農工大附属図書館の「電子図書館」には、「養蚕の浮世絵」という珍しいジャンルを体験することができる。素人向けの解説コンテンツが充実するとさらに利用価値が高まるだろう。
東京海洋大学附属図書館では、百周年記念資料館所蔵電子化資料として、海洋大学ならではといえる和本海事資料(江戸後期)と漂流記がデジタル化されており、後者には「日本漂流譚」「異国漂着船話」「海外異聞」「長崎入船便覧」など60以上が含まれている。
女子栄養大学図書館の「栄養と料理デジタルアーカイブス」では、昭和10年〜昭和40年の雑誌「栄養と料理」を見ることができる。この大学の専門分野というだけでなく、戦前から経済成長の最中までの文化史、風俗史の貴重な側面をも提供しているといえるだろう。
惜しむらくは拡大の調整が2段階のみであり、また拡大した状態でページ繰りができない。その後の技術の簡単な適用で操作性はもっと快適になるはずである。
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ところで大学図書館にはその地域などの縁で旧家や個人研究者の文書がまとめて寄贈されることが多い。
名古屋大学附属図書館における環境をテーマとした「エココレクション」には、「高木家文書」と「伊藤圭介文庫」がある。
「高木家文書」は名古屋周辺に関する国内最大級の河川治水資料でそのデジタルライブラリーは作成中だが、一部を「おすすめ一覧」から見ることができる。
また「伊藤圭介文庫」ではシーボルトに学んだ伊藤圭介による動植物誌がデジタル化されており、多彩な画像を閲覧することができる。
またこの図書館は「古典籍内容記述的データベース」というものを提供しており、これは名古屋大学が所蔵する和漢古典籍について、書誌だけでなく内容までも詳細に記述したものである。このようなものと並行してデジタル画像化がすすめば、理想的な提供形態になるであろう。
東京学芸大学附属図書館がデジタル化している「望月文庫」は、1926年に前身のひとつである青山師範学校創立50年記念事業として師範教育に関係のある図書を集めたものである。
往来物(主に寺子屋で使用された初等教科書)、明治初年以来の初等教育の教科書、植民地・欧米初等教育の教科書などからなり、昔話の絵本などデジタル画像化されているものには興味深いものが多い。
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このように大学図書館デジタルアーカイブの世界はますます充実しつつあるが、この種の事業には継続が肝心ということを忘れてはならないだろう。上記に紹介したものの多くは、国からまとまった予算を取ることができた結果であったり、創立記念事業であったりして思い切ったことができた結果である。この様な場合、次のフォローが資金的にも人的にも困難なことはよくある。しかしそれではせっかく集められたもの、データを活かすことにはならないし、またこれらを利用するマン・マシン・インタフェースも時代遅れになりユーザから敬遠されるもとになる。本来はさらに素人向けのナビ、ガイドなどを望みたいところである。
そうした方向への参考として、福井大学附属図書館の「電子図書館」を見てみよう。
ここでは、所蔵する旧家文書、人名帳、海岸絵図、餅菓子レシピなどを、素人にもわかりやく手短に紹介し、閲覧可能としている。研究者以外の人がのぞくことも想定し、操作説明にも「とにかく一覧を見たい場合」「一ページずつ順番に見たい場合」など工夫があるのは、見習うべきである。「準備中」としてこれから公開するものの表題を複数出しているのも、決意表明として好感がもてる。 |
2006年8月 |
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[ かさば はるお ] |
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