北海道の次は順に青森とも考えたが、変化があった方がいいだろうと、鹿児島を取り上げることにした。鹿児島については第2回「『地域』という『事実上のミュージアム』」で「かごしまデジタルミュージアム」について触れた。今回はこれを中心にもう少しゆっくり見ることにしたい。
「artscape」の全国ミュージアムデータベース・全館一覧で鹿児島県の項は7つと少なく、それも鹿児島市内が多いから、入り口は鹿児島市立美術館からというのが自然である。
ここはまず展示室の使い方がユニークで、常設展、特別企画展、小企画展というのはいいバランスだが、そのほかの一般展示室とロビーは地域の団体、学校向けのスペースになっている。考えてみれば自治体のミュージアムとして不思議はないのだが、明快なところがよい。ただ常設展示の一覧から画像を引き出すことはできない。
一方、収蔵品検索をクリックすると、これはこの館に限定されない「かごしまデジタルミュージアム」につながる。例えば「分類検索」で美術品、油彩画というように進めると、319点(2007年2月6日現在)が順に出てきて、鹿児島ゆかりの画家である海老原喜之助、黒田清輝などの作品を見つけることができるし、サムネイル状態から拡大画像を出すこともできる。ただすべてをこの流れで見るのは量的に困難で、そうなるとキーワードを入れてということになる。ここにはおすすめキーワードがあるけれども、これらも目的別に複数の種類があったほうがいい。例えば絵画などには上級者向けのものがないと、すなわちどういう画家の作品がこのなかにあるのかなどがわからないと、それ以上検索するということがなく、それではもったいないことになる。
また、この二人のほかにも、有島生馬、藤島武二、和田英作など、ゆかりの画家について、何かガイドがあれば、その文脈から画像を引き出す面白みが出てくるだろう。さらに鹿児島県の画家ではなくても、例えば桜島を描いた画家は横山操(新潟県出身)をはじめ数多い。これらの画家の作品がこのデジタルミュージアムにはないにしても、どこかにリンクされていればより面白いだろう。もっともそれはこの枠組みの外にいる個人がやるべきことかも知れないが。 |
さて「かごしまデジタルミュージアム」にもリンクされている鹿児島市立ふるさと考古歴史館は、考古資料を中心とした博物館で、展示の概要説明は丁寧だが、データベースの所在はわからず、特に詳細な情報の出口はない。ニール・ゴードン・マンローというスコットランド生まれの考古学者が鹿児島における考古学調査の始まりとして紹介されている(後に北海道大学でも活動したとか)。
そのほかリンクされているものに「かごしま近代文学館」、「かごしまメルヘン館」があるが、これらについても単独のホームページで見るよりも「かごしまデジタルミュージアム」の分類検索「文学」、「人形」から入る方が、見られるものは多い。「文学」ではゆかりの作家の原稿を閲覧することはできないが、筆跡などは拡大機能で見ることができる(例えば、林芙美子、梅崎春生、島尾敏雄)。 |
 |
|
|
 |
 |
|
|
左:鹿児島市立ふるさと考古歴史館
右:かごしま近代文学館 |
|
|
 |
|
さらに「かごしまデジタルミュージアム」には「西郷南洲顕彰館」、「維新ふるさと館」の収蔵物がリンクされているから、西郷隆盛の足跡をはじめ、維新の歴史を物語るものの画像を見ることができる。これらは「分類検索」でたどるのがいいだろう。これらのほかにも屋外の文化財、伝統工芸品、記念碑など、含まれているものは豊富である。
このように、鹿児島市にあるものを集め、分類し、一体として見せるということは、その地域とはどういところかということを、そこの人たちに意識させるともに、外の人たちに対するまとまったイメージの表出として効果がある。それが一面では観光向けレベルに留まっており、また逆に観光向けであればもっと親切なガイドがあれば、という問題があるにしても。
|
そうやって見てみると、県レベルでは、薩摩藩主島津家のものをまとめて収蔵している尚古集成館とのリンクがいずれできないかという欲も出てくる。
さらに県内の島々のことを考えれば、奄美大島についての情報も今後何かほしいところであって、最近は観光の目玉でもある田中一村記念美術館についても、いまだ著作権はあるとはいえ少しは中身が見えてほしいものである。
なお、「かごしまデジタルミュージアム」のように分散したものを束ねたケースでは、長期的な問題としてそれ自身の保存、アーカイブが大変なことも予想される。期待しながら見守っていきたい。
|
2007年2月 |
 |
[ かさば はるお ] |
 |
 |
| |
|
|
 |
|
 |
ページTOP|artscapeTOP |
 |
 |