この連載でこのところ多くは県の単位でミュージアムのウェブサイトを探訪することにより、その地域についてなにが出てくるか、しばらく見続けている。東京に住んでいることもあり、遠いところから始めるというのは、そのほうが考えやすいこともあるのだが、翻って大都市というのはどうなのか。
そこで今月は愛知県を取り上げてみた。愛知周辺はは三大都市圏のひとつであり、しかも古くから多様な産業が栄えたところである。ただ今や日本の産業、特に工業の中枢のひとつでもあり、地域性といってもとらえにくいところはある。
今回は県の行政サイドが集約している情報をもとに、「デジタルアーカイブと地域」を見てみることにした。アートスケープの全国ミュージアム・データベースから全部拾うと数も多く、またミュージアムとしては立派で全国区といったものもあるところから、東京、大阪などと同様、その内容は地域という軸には重ならないであろう。
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さて愛知県は、行政が作成にかかわったもの、またリンク集として集めたものを、「デジタルアーカイブのご案内」としてまとめている。
最新版は、2007年4月2日現在とある。
このガイドにしたがって、行政がとらえているデジタルアーカイブをひととおり見てみることにしたい。まず、文化財・美術品・工芸品という区分の最初は「愛知の文化財探訪」である。
ここでは60あまりさまざまなカテゴリの文化財が、統一された体裁、それほど大きくはない画像と説明文で紹介されている。画像拡大機能、説明から先のリンクはない。県民がこの先に自由につけられるとよいのだが。
無形文化財を対象にしたものに「学びネットあいち」がある。
現在の登録は29件で、祭り、舞踊、歌舞伎(含子供歌舞伎)などを動画で見ることができる。一般的な家庭のPC環境で、これらがどんなものであるか充分に鑑賞できる映像が提供されている。無形文化財は記録の機会と手段が限られるからこのような試みは貴重であり、継続して蓄積されることが望ましい。
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次にいよいよ本格的な美術館が紹介される。愛知県美術館コレクションである。
ここでは寄贈コレクション、20世紀の絵画と彫刻、版画・素描というカテゴリで、キーワード、作家、地域、時代、主題で探すことができる。またこれらのカテゴリ、探し方にはコンパクトな解説もあり、カテゴリを選ぶとその中にある作家名や一覧の冒頭部分がいち早く表示されるから、どんなものか少し覗くことができるという効果もある。これは他のミュージアムが参考にしていいかたちだろう。またここのデータベースについてのわかりやすい解説があるのもよい。
画像については拡大機能もあり、充分な大きさだが、表示されているものは(明示されてはいないものの)著作権が切れたものに限られるようだ。もっとも時間とともに公開が可能な状態になればこのままのかたちで入るべきところに画像が入ってくるわけで、仕組みとしては望ましいかたちである。
この美術館にはかならずしも愛知県の色というべきものが濃くでているということもないが、愛知県図書館所蔵 絵図の世界では、古いものから近世まで、この地域の絵図(国、郡、村、城下など)を過去の地名、現在の地名、現在の地図から検索することができる。また通常のJPEG画像の他に、Gigaview(PFU社)をプラグインすれば超高精細画像で見ることもできる。
工芸の分野ならここでは陶磁器だろう。愛知県陶磁資料館は、瀬戸市にあり、文字通り瀬戸物にふさわしいミュージアムであるが、収集対象は収蔵品案内で見ると、瀬戸、常滑に限らず全国にわたっている。このサイトでは100点ほどを、画像と適切な解説とともに見ることができる。本当はこのあたり、もっと質・量で圧倒する出し方をしてもよいのではなかろうか。
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さて愛知県の案内で扱われている範囲はもっと広く、次には歴史・街並・景観という区分が設定されている。
その最初は「東海道歴史歩きの旅(東海道ルネッサンス)」というものである。東海道ルネッサンス計画は東海道全域にあるようで、そのリンク集もある。ただここの内容は東海道を中心にした詳細パンフレット、観光ガイドの域を出ていない。むしろリンク集の中にある品川の宿(東京都)の方が地域に残っているものの画像を多く紹介しており、こちらにもせめてこのくらいは欲しいものである。今後のために今の姿を画像として残すという意味もある。
なお、これは県の建設部道路建設課の所管であるが、そういえば先月の山形県ではかつて県令三島通庸が道路建設と併行して高橋由一に沿道の姿を描かせたわけで、それを思えばこの部署の仕事としてふさわしく、実施する意義もあるというものだ。
記録・蓄積が進みつつあるという意味では「愛知まちなみ建築賞作品集」があり、これは良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物・まちなみを表彰したもので、その実績がここにある。ひとつの建物について画像はひとつ、多くの角度からのものがないのは不満が残る。一方これは1993年から続いており、続けていけば一応「アーカイブ」となる。地域アーカイブへの入り方としては堅実ということができよう。
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さて愛知県周辺は多様な産業圏であることは冒頭でも指摘したが、これを観光資源としようという動きが活発になっている。最近よく使われる「産業観光」という言葉もここが発祥の地といってよい。このことに対応して「あいちの産業観光」がある。
このサイトでは、繊維産業、窯業、機械産業、航空・宇宙産業、計器産業、醸造・食品産業、アグリ産業、インフラ、伝統産業、環境産業、自動車産業、新産業・新技術、キーパーソンという豊富な区分で愛知県内の産業観光施設を紹介するとともに、産業が発展する過程で生まれたエピソードやキーパーソンの逸話を映像と音声で紹介している。
ただ残念なのは、このサイトとコンテンツが作られてからある程度時間が経過していると思われ、インタフェースが多少まだるっこしいことで、今の一般的なネット環境であればむしろ区分ごと一気に動画で流した方が見やすいであろう。内容全体としては解説本の域を出ないが、それでも資料としてこれらの画像がネット上に出されている意味は大きい。本来はメンテナンスされ、その後判明したものなど、充実が図られるべきであり、そうなるとまさに「アーカイブ」ということができる。
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一方、従来型観光の領域では「武将のふるさと愛知」があり、これは愛知県ゆかりの武将を通じ、全国各地と愛知との関わりや戦国時代の文化について、臨場感をもって検索することを目的にしたものである。確かに多くの武将がこのあたりから全国に出ており、その広がりを全体としてわかりやすく解説している。観光をサポートするものとしてはよくできている。
ここまででも、地域デジタルアーカイブの対象が広いということは理解できるが、それをさらに広げたものが「あいち地域資源デジタルアーカイブ」である。
NPOに委託して平成14年度、15年度にそれぞれ50事例、62事例を作成、ここには人の交流、文化などソフト的な資源も含まれている。
こういう事例を県の地図、資源のジャンル(自然環境、生活環境、建造物、産業、歴史、まつり、文化、交流、教育・学習)、活用の目的(保全・再生、ビジネス、交流、人材育成、イベント、伝承・文化創造)、活用の担い手(市民、行政、企業、協働)、資源に関わる人物など、多くの角度から調べることができる。このようなものを地域単位で集積していくことは、多くの人を巻き込み、地域資源に対する認識を高め、他地域からの関心にも応えるという点で意義がある。
事例それぞれには定型的な説明と小さな画像がつくが、さらに紹介ビデオ、写真、提供資料、詳細データ、関連データがつながっており、より具体的に調べ理解することができる。ただ惜しむらくは、詳細データなどもこの事業の終了後追加されていないように見えることで、これは常にデジタルアーカイブの問題であるのだが、こういう行政の予算で作られたものが、最初は立派でもその後の発展・膨張がなければいずれ見られなくなってしまう恐れはここにもある。最初から見られる部分は間違いの修整をのぞき固定でもよいが、例えば詳細データにはその後は関連サイトやブログなどを自由にリンクするとか、目録だけだった元の資料がデジタル化されたときには参照可能にするとか、インターネットという世界を存分に活用して欲しいものである。
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以上のほかに、県が直接タッチしていないもののリストとして「市町村デジタルアーカイブデータベース」が紹介されている。
これは県内市町村が作成しているデジタルアーカイブのリンク集であり内容は雑多、多様、来るもの拒まずであるが、なかでは蒲郡市が、寺院、神社、指定文化財、自然など、なかなか充実している。
ここに取り上げたほかにもいくつかあって、なかにはこれがデジタルアーカイブか<!と疑問を感じるものもあるが、行政がこれだけ多くのものをひとまとめにして内外に紹介することにより、その地域について再認識し記録・集積を進めようという動きにプラスの働きをすることは確かである。あとはこの連載で何度も、そして今回も繰り返したように、修整、追加、改良が継続することであり、そのことが人々にデジタルアーカイブを浸透させることにもなる。
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2007年9月 |
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[ かさば はるお ] |
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