大都市圏の後には熊本県を訪れることにした。アートスケープの全国ミュージアムデータベースに記載されているのは7館である。いかにも少ないが、県レベルでは珍しくない。見るべきものもあり、地域を語るものもある。
ここは正攻法で熊本県立美術館から入ってみよう。
全体にユーザー・フレンドリーである。トップページの奥にあるサービスがもっとアピールされていいが、入ってしまえば「子供ミュージアム」などを見ればわかるように、多くの県立博物館に見られるような子供だましではなく、大人でも見るに耐える内容をわかりやすく表現している。「おもしろ検索」では男の人、女の人、どうぶつ、花、山、海、たべものというアイコンクラスのようなカテゴリで相当数の品目を拡大して見ることができる。付加されているデータは基本的なもののみであり、子供にわかる説明はついていないが、ビジュアルなものに関してはまず見て何かを感じるのが先でデータは年代と作者名程度でよいということだとすれば、それもひとつの見識であろう。
一般向けの「美術品検索サービス」へ入ると、通常のキーワード検索は「こだわり検索」という名前になっており探す対象範囲を特定している人向けであることが意識されている。
一方「かんたん検索」では、日本、東洋、西洋と大雑把な地域の指定だけで多くの画像を取り出し見ることができ、拡大も可能である。「書」なども多く、この館の特徴となっている。しかし区分によっては量が多すぎ、10点ずつの表示を繰り返していくのも疲れる。毎度指摘していることだが、何らかのセレクション・モードがほしいところだ。ここにある「おすすめコレクション」というのは寄贈元別に二つ(今西コレクションと細川コレクション)あるだけで、これは学芸員のセレクションではないから、名品展というものではない。
これだけの収蔵物をデジタルアーカイブしているのであれば、もっとうまい見せ方があるだろうし、もったいないことである。トップページからの入り方が「美術品検索サービス」だけというのも芸のない話で、進んでいくと上段に現れる「デジタルアートミュージアム」という名前など、最初から使えばよいのにと考える。
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現代美術には熊本市現代美術館がある。
新しい美術館で、しかも対象が現代ということからデジタルアーカイブの公開は特にない。しかしながら、開催中の展覧会の説明、過去に関わったアーティストの一覧、その解説などは、それもここまでやっているのは、あまり他で見ないことで、これを続けていけば意味が出てくると考えられる。
次に一人の画家に絞った美術館があるので見てみよう。坂本善三美術館である。
坂本善三の年譜と自伝の文章にあわせて主要作品の画像を名刺大くらいではあるが相当数掲載しており、画風の変化と到達点までの道のりを理解することができる。まだ死後それほど経ってなくて著作権はあるわけだが、このように画家のイメージを一通りつかむことができるということは、むしろメリットが大きいというべきだろう。
一人に焦点をあてたといえば、島田美術館には、宮本武蔵関連の収蔵品が多いようで、9月一杯は改装中であるが、武蔵関連数点を拡大してみることができる。
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さて各県に必ずといってよいくらい地域の新聞がある。熊本日日新聞社は新聞博物館を運営している。
ここでは印刷機など技術の変遷、古い新聞がサイトに展示されている。ただ新聞の中身を読めるわけではない。古い新聞の閲覧は、一般人にとってはなかなか難しいものになるが、こういう分野こそデジタルアーカイブ化され、公開してほしいものである。なかでもこのように博物館をもっている新聞であれば。
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最後にもうひとつ紹介しよう。熊本県を代表するものが県立美術館に加えてもうひとつあるのは頼もしいことだ。八代市立縛物館
未来の森ミュージアムである。
豊富な内容、そしてクリック操作だけで初歩的な検索ができ、また多くは収蔵品の名称が最初に出てきたときにサムネイル画像が添えられていることなど、なかなかの優れものである。「おすすめ12選」から検索ページに入ると、キーワード検索のほかに分野別キーワード検索という機能でクリック操作により美術、民俗、古写真、歴史、考古、松井家文書という区分で中に入っていくことができる。9月〜10月に関して言えば常設展示されている松井文庫の漆器(香道具・煙草盆)について、その画像と解説を見ることができ、事前学習にも使えるが、このレベルのサービスもほかではあまりないことだ。古写真は麦島勝(1927- )一人がこの60年あまり八代とその周辺を撮った数多くの写真からなり、これがアーカイブされこうしてネット上で公開されていることには、大きな意味がある。他の地域でも出来そうだが、あまり例を見ない。また「八代市の文化財」をクリックすると旧八代市の指定文化財が豊富に紹介されている。
惜しむらくは、全体にもう少し文章解説がほしいところで、そうなればおそらくこれらの収蔵物がこの地域についてもっと語ってくれるのではあるまいか。とはいえ、ミュージアムの名称にある「博物」と「未来」いう対照はここの実態にふさわしい。
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そして最後に再び熊本県立美術館の「子供ミュージアム」に入って、宮本武蔵の項を開くと、これはここと八代市立美術館、島田美術館の三館共同企画ということであり、子供の頃からネットの上でこのような共同作業による地域ゆかりの武蔵に関する情報を横断的に見られるということは、将来にわたって何かをもたらすにちがいない。 |
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左:八代市立縛物館「未来の森ミュージアム」
右:熊本県立美術館「子供ミュージアム」
宮本武蔵の項 |
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2007年10月 |
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[ かさば はるお ] |
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