風景が語ること
笠羽 晴夫
「デジタルアーカイブ百景」も今回で三十景、ミュージアムサイトを中心にこれまで随分たくさん見てきた。そして利用者の立場からいくつか指摘をした。同じ指摘を繰り返したところもある。振り返ってみるとこれらは、この分野、この仕組みの本質にかかわっており、普通に考えているだけでは、もどかしさを脱しきれないものかもしれない、そう考えるようになった。
多くのミュージアムのデジタルアーカイブは、もちろん収蔵品の画像データベースをもとにしている。対象物は一品、一品であって、サイトが名品選やおすすめツアーを提供している場合であっても、見る人それぞれのペース(歩調)で進んでいく。ただ、現実の館内では、ちょっと横をむけば、これから先いくつどんなものがあるのか、待っているのか、また振り返ってもうこれだけ見たのか、という感覚を持つことが、確認することが出来る。つまり一つの行動スタイルが自然に認識される。
それに比べると、館毎のデジタルアーカイブでは、観覧の感覚といっても、いつも現実の展示に準じた順序で展示されているわけではなく、観覧の実況というわけには行かない。
またピンポイントで目的のものを探す場合であればいいが、そうでないと、そのアート分野のカテゴリ、作者一覧あたりから選んでいくことになる。そうなるとページを繰っていっても、特に工夫された並びでないたくさんの写真をひっくり返すような動作となる。よほどその作者、分野に入れ込んでなければ疲れることで、ツアーを楽しむということにはならない。
文章中心の読書だって、これは自分の自由になるとはいえ、その順序は書かれているものだし、その速度は対象と読者の間で、読み始めれば自ずと無意識に定着してくる。
また見るもの、例えば演劇、音楽、映画など時間芸術という言葉があるのかどうか知らないが、いずれにおいても時間の進行は見る側でなく、見られる対象が握っている。
それらに比べると、多くのミュージアム観覧では自分が時間進行を管理しなければならない。ガイドの人がつくこと、貸し出される音声ガイドなどは、そういうわずらわしさ、長く続くとあらわれる疲労感を緩和するものともいえよう。
国立西洋美術館
そう、何を言いたいかといえば、ミュージアムの観覧、そのデジタルアーカイブをある程度まとめて見るためには、楽しむためには、その対象選択と時間経過のマネージメントについて手助けが必要なのである。順序だけをサービスするガイドツアーでもいいし、進行時間を調節できる日替わりスライドショーでもよい。
また、そのミュージアムのファン(複数)が、自分が好きなものを並べる、あるいはあるストーリーに関係あるものを集めてみる、そういうブログなどが館のサイトからリンクされていることも、見る対象の選択と順序について有効だろう。この連載でこれまで繰り返しその必要性を強調してきたことは、今回の問題とも関係あるのだ。
一方、この対極にあるのが、ピンポイントすなわち「あの画家が描いたあの絵」はネット上で見られるのか、ということである。著作権上の理由で見ることが出来ないのであればそれはやむを得ない。しかしながらあるデータベースのなかにはあり公開されていても、検索にはかからない、というのはなんとかしなければならない。特定のデータベースに存在することがわかっていればその入り口でキーワードを入れることにより表示することが出来る、というだけでは、データベース一般のデータに対してはよくても、もっと多くの人たちに観てほしいそれなりの作品に対しては不十分、ということも何度かここに書いた。
そういう意味で、今春リニューアルされた
国立西洋美術館
のホームページには、利用者への配慮に前進が見られる。所蔵作品検索では、キーワード検索のほか、作家名を五十音またはアルファベットから指定していくことが出来るようになった。従って索引を繰るように、クリックだけで探したり、眺めたりできる。あと一歩として、作家一覧、作家と作品名一覧というものがどこかにあれば、項目数が多くて直接見る場合にはそんなに親切なものでなくても、検索エンジンには引っかかりやすいと考えられる。
情報を活用したミュージアム・サービスの進化というマインドが根づいていくためには、今後ネットワークの末端で利用者がどんな要求をもち、どんな心理で、どういう行動様式で、ミュージアムが発信する情報に接しているのか、より上手なシミュレーションが必要だろう。
2008年6月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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