文化財と自然史で見えてくる滋賀
笠羽 晴夫
滋賀県は、ここから離れているものにとってはイメージがつかみにくいところである。琵琶湖があり、またそのこともあって地勢的にも交通の要衝で、商業が栄え、奈良時代から戦国時代まではさまざまな国政、政争の舞台となってきた。そういうことを頭では理解していても、やはりヴィジュアルなイメージが欲しいところである。
石山寺
滋賀県立琵琶湖博物館
滋賀県立陶芸の森
石山寺
は紫式部ゆかりの地であり、ここのサイトは観光目的のものとしてはよく出来ている。今年(2008年)は源氏物語千年紀ということから、さまざまな行事が企画されており、その案内、また源氏物語各巻ごとの和歌パネルの紹介など、この物語に関係した多くのものを紹介している。古くから伝わるものの広がりは驚くべきもので、一般にアーカイブの効用も結果としてはこれに似たことにあるのではないか、と思わせる。となれば、この地において、今後アーカイブ、そしてデジタルアーカイブに期待するところは大きい。
今回も大きなところから、まずは
滋賀県立琵琶湖博物館
を見てみよう。「インターネットで調べてみよう」というところに入ると、「資料データベース」では、人と暮らしを物語る写真資料、歴史資料に加えて豊富な自然史資料を、多くは画像つきで見ることが出来る。「人と暮らし」では、あらかじめさまざまなキーワードが提供されていて、次々と古写真を見ていく楽しみがある。データベースの作成に協力した団体、個人名が記載されており、さらに積極的に使いたい向きにはそこにアクセス可能かもしれない。また「電子図鑑」では魚、昆虫を中心に鮮明な画像が豊富である。全体に、地域の資料、自然を記録するものとして、地域の人々に協力をよびかけてアーカイブしていく姿勢がうかがわれる。
滋賀県立琵琶湖文化館
は今年4月から休館しているがサイトは残っている。そのなかで「近江の美術」をクリックすると相当数の画像を見ることが出来る。こうなると館そのものの再開とデジタルアーカイブの充実を望みたいところだ。
滋賀県立近代美術館
のサイトでは、展覧会情報などの提供が中心かと思ったら、作品紹介のところでは毎月一つずつ著作権が切れているものを紹介する、ということが続けられており、その集積が20点ほどあって、速水御舟、菱田春草など拡大機能付きで鑑賞に堪えるものであり、解説も詳しい。しばらく休みになっているようであるが再開を望みたい。名品を毎月一つずつというのはゆっくりすぎと思うかもしれないが、それが集積すると相当なものになる。これも一つのやり方だ。データベースも整備中のようであるが、これに付随した画像はまだ公開されていない。
もう一つ、
滋賀県立陶芸の森
は、国内国外の交流をもとに、陶芸作家、陶芸産業の育成を目ざしたものである。過去の作品についてのアーカイブは、残念ながらここにはない。「信楽」のネーム・ヴァリューからすれば、そういうものが今後出現することを望みたい。
大津市歴史博物館
彦根城博物館
この県のアーカイブは期待できそうというところで、もう少しせまいところにフォーカスし、
大津市歴史博物館
のサイトに入ってみる。一つの地域の成り立ちを語るものとしてはきわめて優れたサイトである。「常設展示室」の説明からして、通常のなんとなくこういう風に見えますよということでなく、適切な項目が設定されており、クリックすると大人向けの丁寧な説明がある。また文中であげられている収蔵品がリンクされているのもよい。「収蔵品紹介」も絵画、彫刻、・工芸、古文書・書跡・典籍、歴史・民俗の分類で、ほぼ総覧することが出来る。個別の説明も詳しいが、画像は鮮明なものの全体に小さめで、ものによっては拡大機能が望まれる。これはいずれ実現されるだろう。館外にある大津の文化財紹介もよいが、可能な範囲で画像は欲しい。うれしいのは「大津の古写真」で、文化から風俗、その時々のローカル・ニュースなどさまざまな面をみることが出来るし、「大津の歴史事典」があるのも親切である。全体として大人向けの百科事典を作ろうとしたのではないかと思われる。これも一つの見識だ。
次に代表的な観光スポットである
彦根城の博物館
をみると、見学者に対する案内機能が主となっているが、「館蔵の名品」として50点、武家の備え、風雅のたしなみなどの区分があり、拡大機能付きで公開されているのは評価できる。ただ、色の校正は今後必要かと考えられる。赤がかぶっているものが多い。
そして町立のものとして、高月町立観音の
里歴史民俗資料館
を見てみよう。これは町に観音像が多いことからできた資料館で、国宝木造十一面観音像を始めとする20近くについては画像を入手のうえ公開しており、国宝をはじめ、いくつかについては拡大画像も提供されている。そのほか工芸、文書などの資料、屋外の史跡が画像とともに紹介されていて、これは気持ちいいことである。こういう紹介は観光に関しても効果があるだろう。この規模のサイトのモデルとしても評価できる。
このように見てくると、この県を語るミュージアム、そのアーカイブとデジタルアーカイブは、水準以上であることがわかる。ここで
県のホームページ
を見てみると、その「教育・文化」の項では、文化施設の所在はもちろん一覧があり、文化財の目録も画像はないものの、また多くは文書のPDF化であるにしても、これだけのものがあるということは収集して提示している。これは今後データを充実させ、文化の享受、学習、観光などに役立てるためにまず始めなければならないことで、これがあたりまえのように出来ているということは、期待をいだかせる。今後はこの地に多い由緒ある寺社に、さらには私立のミュージアムなどにもよい影響が出てくることを望みたい。
2008年8月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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