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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
建築的に大規模情報を可視化する
「プランネット・アーキテクチャーズ」

影山幸一
 風景を眺めるように情報を見渡す。今後ますます膨大化する情報を気持ちよい景色のように表現することが求められてくるだろう。情報はどこへ向かっているのか。多くの作品を収集している美術館や博物館では、作品のデジタル化が情報の大量集積へ繋がっていくことになる。鑑賞者が直感的に欲しい情報へアクセスできるよう、インターネットの空間を設計デザインしている建築事務所がある。建築家・松本文夫(以下、松本氏)氏が主宰するプランネット・アーキテクチャーズである。建築事務所といえば、現実の建物を企画・デザインしたりするものと思っていた。プランネット・アーキテクチャーズは、松本氏個人が運営する事業体で、プロジェクトごとに他のメンバーと共同する。磯崎新アトリエに10年間勤めていた松本氏は、ブルックリン美術館、ハラミュージアム・アーク、京都コンサートホール、オハイオ科学工業センター、国立国会図書館関西館などのプロジェクトで、コンペや基本/実施設計などを担当してきた。なかでも京都に2年半滞在し、設計と現場監理を行なった京都コンサートホール は思い出のある仕事だったと言う。

建築家・松本文夫氏 京都コンサートホール
左:建築家・松本文夫氏
右:京都コンサートホール
(設計:磯崎新アトリエ)

 建築系と情報系の仕事領域をもつプランネット・アーキテクチャーズ。もともと形のない情報に空間的な形を与えることで、情報相互の関連性や全体像が浮き彫りになると言う松本氏は、インターネットの景観「GINGA(Global Information Network as Genomorphic Architecture)」・横浜元町を一覧するWebプロジェクト「INFOTUBE」・東京・銀座の街並みを記号化して情報を抽出する試みの「CT(City Tomograpy)」・情報の銀河「琉球ALIVE(Access Log Information Visualizing Engine)」・埋蔵された美術館「(仮称)青森県立美術館」・ラップ・マップ・シティ「北国型集合住宅」など、サイバー空間と現実空間の両空間にわたり、多くのコンセプトやデザインを提案している。

GINGA INFOTUBE
CT 左上:「GINGA」
右上:「INFOTUBE」
下:「CT」

琉球ALIVE
青森県立美術館
北国型集合住宅
上:「琉球ALIVE」
中:「青森県立美術館」/下:「北国型集合住宅」
 特に、デジタルアーカイブで注目を集めたのは日本最大の地域デジタルアーカイブ「Wonder沖縄 」で実施されたインターフェイス「琉球ALIVE」である。約10,000ページものデジタルアーカイブの全体像を「情報の銀河」のように表現し、そのアクセス状況を銀河の絶えざる変動として可視化させていると言う。ALIVEと名付けられた情報可視化エンジンでは、デジタルアーカイブへのユーザーのアクセスログを解析し、銀河の3次元空間データを常時生成し、流れは時間による変化を、球はデジタルアーカイブがもつ求心的な性質を示唆させたのだと言う。銀河の無数の星(情報コンテンツ)は、重力の作用によって徐々に中心部に引きつけられ、ユーザーのアクセスがあると反発力が作用して最外部に飛び出す。こうして銀河の一番外側には、常に最新アクセスのあった情報コンテンツが位置するようになる。一般にデータベースの検索は文字検索によるものが多いが、サイバー空間に浮遊したたくさんの画像を眺めながら好きな画像を気の向くままに選択することができる。二次元の世界から三次元の空間へ誘い込む「琉球ALIVE」の透明感のある美しさは、Webデザイナーの仕事かと一瞬思うかもしれない。これが建築家の作品表現のひとつであることに驚き、しかしすぐに納得するのだ。

 この「琉球ALIVE」のコンセプトは、1999年制作の「GINGA」が基になっている。インターネットの情報世界を空間的に視覚化したインフォメーション・スケープ(情報景観)のWebプロジェクト「GINGA」には、9種類の設定がある。インターネットの世界を情報特性によって9つの見方ができる。
1) IPアドレスを3次元化したNebula
2) 情報の更新周期を視覚化したRing
3) サイト間のリンク構造を視覚化したNetwork
4) Yahoo!のような樹状構造をもつForest
5) 情報を時間順に堆積したStrata
6) 文字情報のみを集積したText
7) 画像/映像情報を集積したImage
8) 音楽/音情報を集積したSound
9) 情報の墓場であるCemetery
「ユーザーはワールドの中において、風景や地形を眺めるように漠然とかつ直感的に情報を把握し、自ら情報を探索し、また他のユーザーと情報を交換することが可能となる」と松本氏は話す。

 現実の美術館ではすべての収蔵作品は見せられないが、インターネットであればすべての収蔵作品を見せることができる。松本氏はこう言いながら、大量の情報を見せるときは選択して見せる方法と一覧して見せる方法があり、すべてを見せる場合でもルールを決めることで見やすくなるとIBM製のラップトップPCで「インターフェイス・デザインの変化」や「空間の4つのビジョン」という図表を表示し、コンセプトを作るときの基本的な考え方を説明してくれた。また、現実の美術館をインターネット上で完全再現化するのには興味がなく、インターネットで美術館を再現するのであれば、建物本位とは異なる作品本位の見せ方をしたほうがいいと言う。そして、松本氏はPC画面に「社会環境を読み解く3つの軸」を出し、グローバルやコモンは現代社会が全般に指向するものだが、ローカルやプライベートはデザイナーが忘れてはならないものとして、現代社会の関係性を3本の線で表わした。建築家やデザイナーの仕事は、ソリューション(問題解決)とクリエーション(価値創造)というのが松本氏の持論。社会のなかで新しい価値を生み出し表現していく。次世代のビジョンを見るのが好きだと言う松本氏は、今後実空間そのものがインターフェイスとなる予感を抱きつつ、情報空間と実空間の融合したユーザビリティーの高いインターフェイスを作り上げたいと夢を語っている。

社会を読み解く3つの軸 インターフェイス・デザインの変化 空間の4つのビジョン
社会を読み解く3つの軸/インターフェイス・デザインの変化/空間の4つのビジョン(*クリックで拡大します)

 インターネットの通信回線量が増し、ハードディスクなど保存媒体の価格が安価になるのはよいことであるが、ますます日々膨大な量のデジタルデータが生成され保存されていく時代となってきた。この保存されたデータを活用していくには、わかりやすく・使いやすいインターフェイスをデザインする必要がある。膨大な情報を理路整然と美しくかつ利用しやすくまとめる設計者として、建築家のアイデンティティが活かされるのだろう。名画を所蔵する美術館の多くが建築家を選ぶように、大規模な情報を保存していく美術館は今後デジタルアーカイブ構築時に建築家を選ぶのかもしれない。「デジタルアーカイブがコミュニケーションの発生のしくみになればいい」と言う松本氏。真正な情報が脳を刺激して豊かな発想を生み、新しい価値を創り出すというしくみ。この新しい価値もデジタルアーカイブされ、次世代へ伝えられていけば、デジタルアーカイブの保存と活用の循環システムが整ってくるはずだ。

 視覚的芸術作品や資料を扱っている美術館や博物館は、インターフェイスの表示画面や文字のサイズ、言語や色、あるいはデジタルデバイドに配慮して、ユーザーが見やすく・感じやすく・操作しやすいようにWebサイトの画面表示を工夫することが必要であろう。作品を展示・公開するという美術館や博物館の目的のひとつをWebサイトが担うウエイトが大きくなってきている。広報としてWebサイトに作品画像を並べておく段階から、誰にどのように作品情報を伝えたいのか、エンターテイメント性を加味した教育的表現などを検討する次の段階にきている。膨大な量の情報から見たい作品へ、視覚的に直接作品情報へアクセスし、他のWebサイトの関連情報へもリンクされていけば関心は深くなり、さらに知識が増えていくことになる。現実の美術館や博物館では体験できない楽しみが、建築家によってひとつ加えられたのである。


(資料提供:松本文夫)

■事務所概要
プランネット・アーキテクチャーズ
代表:松本文夫
http://www.plannet-arch.com/

■松本文夫(まつもと ふみお)履歴
1984年早稲田大学理工学部建築学科卒業、1986年早稲田大学大学院建設工学専攻修士課程修了、1986年(株)磯崎新アトリエ入社、1996年同社退社、1997年プランネット・アーキテクチャーズ(一級建築士事務所)設立。主な作品歴と受賞歴:1998年「N-City」(住宅都市整備公団主催 優秀賞受賞)、1999年「情報時代のライブラリ」(ACADIA主催 ファイナリストに選定)、1999年「GINGA」(ORF/Prix Ars Electronica主催 アルス・エレクトロニカ1999.net部門Honorary Mention受賞)、1999年「GINGA」(〔財〕マルチメディアコンテンツ振興協会主催 マルチメディア・グランプリ1999ネットワーク部門アート賞受賞)、1999年「INFOTUBE」(日経アーキテクチュア主催 日経アーキテクチュア・デジタルデザイン・コンペティション最優秀賞受賞)、2000年「青森県立美術館」(青森県主催 入選)、2000年「中里村新庁舎」(群馬県中里村主催 佳作)、2003年「琉球ALIVE」(マルチメディア・アライアンス福岡/福岡県ほか主催 2003アジアデジタルアート大賞デジタルデザイン部門優秀賞受賞)など。現在、法政大学・日本大学・桑沢デザイン研究所・ワシントン大学・慶應義塾大学で非常勤講師を務める。

2004年12月
[ かげやま こういち ]
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