ニューヨークの地下鉄構内にキース・へリング(Keith
Haring[1958-90])は「落書き」(作品制作)をしていたが、いま東京の地下鉄は広告表現の新たな場として注目を集めている。独特の暗さと、照明と、人込みが作る劇場の入り口のような雰囲気は何かを予感させるものがある。
地下鉄の民営化により、2004年4月に東京地下鉄(株)(愛称:東京メトロ)となった東京の元営団地下鉄は、「お客様視点」と「自立経営」を柱とした事業展開を行なっている。たとえば、非鉄道収入である交通広告の増収を見込んで、年々深くなる新しい地下鉄のエスカレーター壁面やベルトの上、車両外壁、あるいは駅全体を広告スペースとして活用を図っている。画廊や美術館の展示空間とはまったく異質ではあるが、パブリックな場において画像を見せるギャラリーとして、アーティストの作品発表の場が増えたとも考えられる面白い展示空間である。最近は掲示板に貼られた大判ポスターに3次元バーコードを入れて、詳細な情報は携帯電話で読み取るというものまで出てきている。
最もインパクトがあったのは、2004年6月から1年間実験的に実施しているという銀座線・溜池山王駅から赤坂見附駅間の進行方向右側の車窓に現われる映像だった。わずか1区間の中に流れる画像である。目の錯覚かと思った。動いている地下鉄の車両内でつり革につかまり、暗闇のトンネルを窓越しにぼんやりと見ていた。突然窓ガラス一面にカラー映像が出現し、あっという間に消えてしまった。広告の内容よりいま起きたことが何であったのか、なぜ走行中の地下鉄車窓に動画が映ったのか、サブリミナル効果を狙った何かか、その答えを探すことで頭が一杯になっていた。
トンネル内を映像メディアに変えてしまった会社とは、どのような会社なのだろう。
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サブメディア トンネル内設置風景 |
インターネットで調べてみた。銀座線の三越前駅から5分ほど歩いたビル内、SOHO(Small Office・Home Office)スタイルの株式会社サブメディア ジャパン(以下、サブメディア ジャパン)という会社である。トンネル映像の仕組みとこれからの方針などをお伺いした。3名いる社員の代表、月川成洋社長(以下、月川氏)が忙しいなか対応してくれた。さっそく、あのトンネル内の動画の仕組みを尋ねた。「サブメディアと呼ぶシステムの原理は、パラパラ漫画の応用でローテク」と月川氏は言う。テレビCMなどの映像をデジタル技術により少しずつ異なる26コマの静止画像に圧縮処理後、1枚のフィルムに出力する。そして、縦に30数本の5mmスリットが入った、幅120cm×高さ85cmの電飾看板用ディスプレイBOX(コルトン)に入れて、後方から蛍光灯を照射し、観賞者の視覚に納まるよう横長に配列する。現在のサブメディア設置距離の200mでは、150枚(150BOX)のフィルムが貼られ約15秒間、テレビと同じくらいの解像度で100インチディスプレイ相当の映像として、車窓に映し出されるそうだ。京成電鉄成田線、都営地下鉄新宿線、JRの成田空港線、青函トンネルには発光ダイオードを使った簡単なメッセージやイラストが既にあるが、カラー映像としては初めての試みであると言う。
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